おなかの虫の悲痛な訴えで時計を確認すると、時刻は午後二時にさしかかろうとしていた。朝食を食べたのが午前八時だとしてももうそろそろ六時間か、なんて、そんな風なことを考え始めると、ますますの空腹感に襲われる。わたしはさすがに作業を切り上げることにして、食堂へと向かった。 昼食にしては少し遅い時間だから、もしかしたら誰もいないかもしれないとかぼんやり考えていたのだけれど、食堂にはせっちゃんがいた。わたしもせっちゃんに倣ってひとつトレーを取って、当然のようにその隣に陣取る。わたしは、食事のときには極力誰かの傍に座るようにしているのだ。そのおかげか、大抵のクルーとはそれなり以上に仲良しだと思う。ただし、せっちゃんとティエリー除く。 特にティエリーなんかは呼んでも振り向いてすらくれない。仲良くなるための第一歩として付けたこの愛称が気に入らないのかもしれない。フェアリーと語感が似てて我ながら可愛いと思うのに。その点せっちゃんは、まあ、話しかければ返事はしてくれる。共通の話題があまりに少ないという問題はあるけれど。 それにしても。食事の手は止めず、わたしはちらりと自分のトレーの隅に添えられたパセリを見遣る。うう、正直あんまり好きじゃない。さっさと口の中に放り込んでしまって他のもので誤魔化すべきか否か――そんな苦渋の決断を迫られていたそのとき、ふと、隣で黙々と食事を続けるせっちゃんのトレーの片隅に弾かれたオレンジ色が目に留まる。……あ、いいこと思い付いた。 「せっちゃんせっちゃん」 わたしが呼ぶと、せっちゃんの大きな瞳がわたしを映す。可愛いなあ……じゃなくて。 「そのニンジン食べてあげよっか」 「……いいのか?」 「その代わりわたしのパセリ食べて」 「了解した」 あっさりと交渉成立。わたしはパセリをせっちゃんのトレーに、せっちゃんはニンジンをわたしのトレーに移す。それがなんとなく隠れて悪戯をする子どもみたいで、わたしは妙な共犯者意識を抱いてうれしくなる。 それから、せっちゃんとわたしはいつもよりたくさん話をした。「ロックオンに見つかったら叱られるね」とか、そんな他愛もない雑談を。その中で、ニンジンが苦手なことの他にあと二つ、わたしはせっちゃんの新たな一面を知る。意外と顔に出るタイプ(よく見ているとわかる)なことと、それから、コーヒーには大量のミルクを入れることだ。 (せっちゃんそんなにミルク入れたら最早カフェオレ、)(コーヒーだ) ランチタイムロマンス 20110122 |