「なまえ? 泣いてるの?」 ベッドに突っ伏してふかふかの枕に顔をうずめて、そうしてめそめそ泣いていると、そんな風な声が聞こえて、わたしは顔を上げた。 「だっ、て、ブリングが……っ」。振り返った先、部屋の入口に立つリジェネに言う。けれど、紡ぐ言葉は止まる気配を見せない涙と嗚咽に邪魔をされて最後まで声にならなかった。それでも、大方の感情は脳量子波で伝わったらしく、「ああ、そんなこと?」と、リジェネは呆れたような表情を作った。 コツコツと硬質な足音を響かせて、リジェネがわたしの方に近付いてくる。「そん、な、ことって。リジェネ、は……悲しく、ない、の?」。わたしは言葉を重ねる。「別に?」。リジェネは本当に何でもないことのように答えて、ベッドサイドに腰を降ろす。ぎ、と、小さく悲鳴を上げるみたいにベッドが軋んだ。 それは今のわたしの心情によく似た音だと思った。ブリングがいなくなってしまったのに、どうしてリジェネは平気な顔をしてるんだろう。わたしの方がおかしいのかな。もしもいなくなったのがわたしでも、リジェネは今みたいにいつも通りだったのかな。 「なまえって馬鹿だよね」 ちょっと想像しただけの架空のそれにも悲しくなって後悔するわたしに、まるで追い討ちをかけるように、そんな言葉が落とされる。けれど、見上げたリジェネの表情はどこかやわらかい。「だって、そんなことはあり得ないのに」。その真意が掴めなくて戸惑うわたしを余所に、リジェネは続けて言葉を紡ぐ。 「なまえは、僕の許可もなくいなくなってしまうつもりなのかい?」 そうして伸ばされた白い手がわたしの髪を梳き頬を撫で、細い指先が涙を拭う。リジェネは困ったように笑っていた。 「ほら、いい加減泣き止みなよ。僕の傍にいたいならもっと賢くなってくれないと」 神様 愛しい人に捧げた心臓は誇りなのです title:選択式御題 20110410 |