※現代パロ


 ふと目をやった時計が指し示す時刻は、丁度、長針と短針が重なる頃だった。あと数分で日付は変わって、明日――幼なじみの誕生日を迎える。……ふむ。カーテンの隙間から外を覗くと、向かいの部屋にもまだ灯りがついていることが確認できた。わたしは少し考えて、結局、ベッドの上に放り出されていたケータイを拾って幼なじみの番号を呼び出す。「……あ、もしもし刹那? 今から行くからそのつもりでね」。そして、言いたいことだけを一方的に告げて手短に終話。ベランダに出ると、刹那も同じように部屋から出て来ていた。

「待て、なまえ。俺が行く」
「えー? いいよ。代わりにケータイ持ってて」

 わたし達の住む家は対称的な造りをしていて、子供部屋同士のベランダが近接している。それこそ、簡単に行き来できるくらいに。とは言え、もちろん落ちれば危ないし、刹那もそれを心配して言ってくれたんだろう。それでも、わたしは特に気にせず刹那にケータイを押し付けるとえいやっとベランダの柵を乗り越える。刹那は呆れたような溜息を吐き出していた。
 「何なんだ、こんな時間に」。ケータイを受け取って、まずは時間を確認。「んー、えっと。あと五秒」。さん、にー、いち。

「刹那、誕生日おめでとー」

 ケータイのディスプレイに写し出された時計の数字が全部ゼロを示した瞬間そう告げて、今年はわたしが一番に言っただなんてささやかな優越感に浸ってみる。当の刹那はと言えば、「ああ、」とか薄い反応しかしてくれないけど、まあ、そんなの毎年のことだし。

「プレゼント何がいい? 何でもいいから取り敢えず言ってみて」
「身長」
「……ごめん……」

 部屋に通されながらそう訊くと、何の迷いもなくそんな答えが返される(目が本気だ……!)。謝るしかなかった。「ほ、他には?」。しかも、重ねて訊けば真剣に考え込み始めてしまう刹那。
 えー……。わたしは今のままでもいいと思うけど、そんなに背が高くなりたいのか。周りにいる人の背がことごとく高いのもあるのかな。とか、わたしも色々考えている内に、やがてぽつりと声が落とされる。

「なまえがいてくれるだけでいい」

 その言葉は、完全に油断していた(というか、予想できる筈もない)わたしにとって、ひどく衝撃的なものだった。ああ、頭が真っ白になるってこういうことなんだ、とか。


(わ、うあ……わたしが喜ばされてどうするの?!)



ひとはうれしくてもなくんだね(そしてね いとおしくてもなくんだよ)
title:選択式御題
20110407(ハッピーバースデー!)
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -