ちょっと一服でも、と思って立ち寄った展望室のドアの向こうには、なぜか紙飛行機が溢れていた。何だこりゃ。

「あー! また煙草!」

 その光景に呆気に取られていると、悪戯を見咎めるような声が響く。視線を巡らせれば、大量の紙飛行機に埋もれて、更にその手には作りかけの紙飛行機を携えた少女がひとり。「なまえ、」。どうやら、この紙飛行機は彼女が量産しているらしい。
 「マイスターは身体が資本なのに」。冗談めかしてなまえが笑う。観念した俺は、煙草の箱をポケットにねじ込んで話題を変える。

「それより、何なんだ? この紙飛行機」
「んー? 手紙だよ」

 なまえは完成したばかりの紙飛行機を広げて見せた。紙面いっぱいに踊る、少しクセのある小さな文字は近況を報告しているらしい。いくら本人が見せてくれているとは言っても、他人の手紙を読むのは気が引けて、ざっと目についた単語でそう判断する。それならそれで、誰にとか、どうして出さないんだとか、新たな疑問が浮かんだが、最後の一行、『誕生日おめでとう』の文字でそれも瓦解した。同時に、「今日はニールの誕生日だからね。毎年書いてるんだ」。ひらり。なまえの指先が、紙飛行機の形に戻した手紙を揺らす。

「最初は書くだけだったんだけど、この形の方が、届きそうな気がするでしょ?」

 それを受け取るべき人物はもういないから、どうしたって届かないし返事もこない。それでも、なまえはどこか無邪気に笑っていた。おそらく、この子は兄さんの死を悼んでいる訳ではないのだろう。そういう地点はもう通り過ぎていて、ただ単純に、今ここにいない兄さんに自分の様子を知らせたいという、それだけのこと。
 俺にはその笑顔がとても尊く綺麗なものに思えて、たった一言の相槌すら喉につかえて声にならない。けれど、この空間に沈黙は降りない。「あ、ねえ、」。そんな俺に構うことなく、なまえが変わらず明るい調子で言葉を続けたからだ。

「双子ってことは、ロックオンも今日が誕生日なんだよね。おめでとう」

 この歳にもなると誕生日に大した感慨もないと思っていたけれど、そう言われて悪い気はしなかった。「ありがとな」。いつも通りの調子で言って髪を撫でてやると、なまえはくすぐったそうに目を細めた。

「来年は、もっと派手にお祝いしよう。みんなで」


(世界を敵に回したテロリストが未来を語る、)



願いは届きません優しい世界は死んでしまいました
title:選択式御題
20110303(ハッピーバースデー!)
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