蠅王 | ナノ
深夜四時、沖縄のホテル。便乗でついて来た修学旅行も明日が最終日。昨日は地元の不良たちと問題起こしそうになったり、古市くんが女湯を覗こうとしたり、寝ないでガールズトークをしていたらいつの間にか早乙女先生が混じってたり、散々だったせいか今日はみんなあっさり寝てしまった。勿論、私も寝ていたのだけれども、こんな時間に鳴ったメールの着信音で目覚めてしまったのだ。幸い、鳴ったのは私の携帯電話で、起きてしまったのも私だけ。
寝呆けた頭を起こしながらメールを確認する。迷惑メールかと思ったら差出人は東条で、件名はなく本文には短く『起きてるか?』と入力されていた。

…起きてるも何も起こされたんですけど。

なんて、返信できる訳もなく『今さっき、目が冴えちゃった。』と送った。
男子部屋はみんな起きてるのかしら。早乙女先生も混じって雑談してそう。先生の意外な一面をちょっと可愛く思いながら布団から身体を起こすと、メールを受信した。
件名に『海行こうぜ!』と入力されていて、本文はなし。

…海?!しかもこの流れだと今から?!いやいやいや流石に早乙女先生に止められ…と、一人パニックなっていたら、窓からコンコンとノック音が聞こえた。まさかと思い、カーテンを開けるとまだまだ薄暗い中にそこにはいい笑顔をした東条が立っていた。窓も開けると冷んやりとした風に、磯の香りが混じって髪を弄ぶ。

「邦枝!迎えに来た!」
「しっ!今何時だと思って…。」
「海行ける時間なんて今ぐらいしかねえんだよ。」
「行っても入れないわよ?」
「俺もそこまで馬鹿じゃねえ!海に邦枝好きだって叫ぶんだよ。」
「はあっ?!」
「渡さねえラブレターなんて意味ねえだろ?って行くぞ!」

ほら、と差し出された手を取るのは少し照れくさかったので、靴取ってくる、と東条に背を向けた。月明かりに照らされて、東条の髪はいつも以上にキラキラしていた。