壊れてそして | ナノ
■ 第三者から見た二人

私の学校にはベストカップルと名高い男女がいる。3年生の先輩で、どちらも違う意味で有名な二人だ。
まず男の人、黒尾鉄朗先輩。少し特徴的なツンツン頭をしたあまり目付きのよくない人だ。でもその悪そうな見た目とは裏腹に気配りが上手で優しいと評判、そのギャップに心を掴まれる女子は多い。私の友達もよくきゃあきゃあしているし、告白をされている場面も何度か見たことがある。男子バレー部の主将を担っていて、身長はかなり大きい。学校生活ではいつも友人に囲まれていてよく輪の中で笑っている姿を見かける。
一方、女の人は貴田春瀬先輩。彼女は金髪のロングヘアで、その髪の長さは胸下まである。160はある身長に、長い足と細い身体、美人の部類に入る人だ。でも彼女が有名な理由はその見た目ではなく数々の珍伝説から。例えば最近だとネクタイを何故かトイレに流したし、問題児二名とオタク女子を友人関係に作り上げた。過去には屋上でサンマを焼いたこともあり(聞けば黒尾先輩もそこに居たとの噂)、生徒指導の山本先生に怒鳴られている途中突然先生の頬を指で突き「や〜ん、赤ちゃん肌〜」と笑ったこともある(後に山本先生からは殴られていた)。所謂少し変な人だった。
そして二人はどうやら幼馴染らしく、よく一緒に居るのを見かける。恐らく校内で黒尾先輩と貴田先輩を知らない人はあまりいないだろう。そんな二人だが、長い付き合い故だろうか掛け合いが面白いことでも有名で、思わず盗み聞きしたくなることがしばしば。例えばこんな会話があった。

「なぁハル、おんぶに抱っこってどういう意味だ。」
「何さいきなり。え、遠回しに調べれって言ってる?」
「言ってる。俺のスマホ鞄なのぉ。とるのめんどくせー、から、よろー」
「しょーがないな……あったあった。えーっと、子供が、おんぶしたら次に抱っこをしてと甘えてくる様からきた言葉で、何から何まで人の世話になること。要するに他人任せなことって意味なんだって。非難の言葉としてよく用いられるらしいよー」
「なーる」
「つまり語句の意味を調べろと他人任せをした、今のクロを少し表していますね」
「応用力すごいな?!俺今非難されてるの?!」

他にも、

「黒ぴー、ヒザって10回言って」
「………ピザじゃね?」
「ピザだ……!」

だったり、

「遠征なのに天気予報また雨かよ。誰か雨男いんじゃねーの?」
「その内鞭男も出てくるかもね……」
「飴と鞭じゃねーよ?」

はたまた、

「クロ〜貴田春瀬って10回言って」
「きつ。なが。」
「がんばれがんばれ」
「貴田春瀬貴田春瀬貴田春瀬貴田春瀬貴田春瀬貴田春瀬貴田春瀬貴田春瀬貴田春瀬貴田春瀬」
「私は?」
「……貴田春瀬」
「だいせぇ〜いかぁ〜い」
「やったぁ〜そりゃそうだぁ〜」

と。思わず聞いててこちらが吹き出してしまう会話をよくしている。黒尾先輩と同じクラスの夜久先輩(この人もバレー部)に二人してよく頭をはたかれているのも日常風景だ。そんな貴田先輩と黒尾先輩は、どうやら付き合ってないらしい。この事実を知った時の私の衝撃度は計り知れないものだった。だって、幼馴染で、あんなに一緒に居て、あんなに息の合う会話をしているのに。
でもやっぱり、あの二人は絶対お互いのこと特別視しているだうなぁと確信したことがあった。あれは確か雨の日。私は委員会があって下校が遅くなり、もう学校にはあまり生徒が残っていなかった。帰ろうと廊下を歩いていると、丁度前を歩いているのが黒尾先輩だった。その身長の高さと広い背中にしばし見惚れていると、先輩は何かに気付いたように足を止めて、窓の外を見たのだ。つられて私もその視線の方を見ると、渡り廊下に貴田先輩が立っていた。先輩は何をするわけでもなく、ただぼーっと空を、雨を眺めているみたいだった。その先輩の表情を見るのは初めてで、私は少し不安な気持ちになった。だって、凄く変だ。本当に貴田先輩なのかなって思った。それくらい表情は虚ろで、雰囲気が明らかにいつもと違っていたから。すると気付けばいつの間にか前にいた黒尾先輩はいなくなっていて、再度窓の外を見たら貴田先輩の所に小走りで近付く黒尾先輩の姿があった。貴田先輩がその姿に気付くと一瞬、表情がくしゃりと歪んだ。黒尾先輩が目線を合わせるように少し屈んで、貴田先輩と何か話をする。そして黒尾先輩の大きな手が、それはそれは優しい手つきで貴田先輩の頬を撫でた。勿論窓越しで離れていて言葉は聞こえなかったけど、口の動きだけでも一つ分かった単語があった。
大丈夫
黒尾先輩がその言葉を言った時、貴田先輩が眉を八の字にして、ホッとしたように微笑んだ。私もホッとした。いつもの先輩に戻っていたから。黒尾先輩が貴田先輩の頭を自分の胸に引き寄せて、髪にキスをした。貴田先輩は気付いてないみたいだった。何もわからないけど、私は泣きそうになった。



「ゲンコツ山のたぬきさん〜って歌あるだろ」
「うん。」
「で、グーで殴んのもゲンコツって言うだろ?」
「……うん」
「果たして同じ意味なのか…?ハル、俺をおんぶして抱っこしてくれ」
「ううう〜こいつ一応知識吸収してるよぉ〜また私がスマホで調べるのかよぉ〜」

今日も今日とてこの会話。
付き合えばいいのにって思うけれど、あの日の二人を思い出すと、そんな簡単なことじゃないのかなぁなんて勝手に、思ったりもするのだ。
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