「幸せに変える魔法だよ」
☆1
宮田はすごい。
勉強も運動もできて。
完璧で。
俺のことも大切にしてくれて。
「姉さん。俺の、いいところ、何かある?」
「どうしたの、急に」
「……あの、宮田は、すごいんだ。勉強もできるし、運動もできるし、優しいし、俺のこと大切にしてくれるし」
「うん、それで?」
「それなのに、俺は、勉強できないし、運動なんてもっとできないし、優しくもないし、宮田に大切にされているだけで、何もできていないし」
「惚気?」
「え?」
「そのままのアンタでも、宮田くんは好きでいてくれているんじゃない?」
「……でも」
俺ばかり、都合がいい関係のようで。
何処か、落ち着かない。
「俺も宮田のためになりたいけど、何をしたらいいのか、わからない」
「だったら、そう言いなさいよ。アンタは本当に学習しないね」
☆2
「おはよう」
「お、おはよう」
朝からやっぱりカッコイイ宮田に俺はドキドキして、言葉に詰まる。
他の生徒よりも早く登校し、俺たちは体育館裏の木の下に行く。
ずっと俺の逃げ込み場だった此処が、こんなにも素敵な場所になるだなんて思わなかった。
宮田はすごい。
ただ宮田がそこにいるだけで、俺の世界が色を変えて。
キラキラして楽しませてくれる。
俺のことを幸せな気持ちにしてくれる。
だから。
「宮田、あのさ」
「何?」
「俺にして欲しいこと、ある?」
「え?」
勇気を出して、宮田のために何かしたいと言ったら、宮田はしばらく固まって動かなくなってしまった。
俺、余計なこと言ったのか?
困らせてしまったのか?
そんなつもりじゃなかったのに。
「宮田、悩ませたかったわけじゃないんだ」
☆3
「あ、いや、悪い。悩んでいたんじゃなくて、嬉しかったんだ」
「俺まだ何もしていないのに?」
「俺のこと考えてくれていたんだろ?」
「う、うん」
「それが嬉しい。ありがとう、氷流」
「いや、別に、お礼を言われるようなことしてないし。むしろ、お礼を言うのは俺だし。俺だよ、うん。いつもそばに居てくれて、ありがとう。すごく、俺、幸せだ」
「……そうか、なら、俺も幸せだ」
「?」
俺が幸せだったら、宮田も幸せ?
「不思議そうな顔をするなよ。氷流だって、俺が幸せだったら、嬉しいと感じてくれるだろう?」
「ああ、それは」
そうだけど。
「でも、俺、俺も、何か宮田にしてあげたい」
「何をそんなに必死になっているんだよ」
「だって、さ、宮田はすごい」
☆4
「俺はすごくないよ」
「えー」
「たださ、格好つけているだけだから」
「?」
「俺は氷流が思っているような奴じゃない」
「違うのか?」
いや、宮田は勉強も運動も出来て優しいし。
俺のこと大切にしてくれているし。
それは、本人が違うと言っても、違わないと思う。
「謙遜するなよ、宮田」
「してないよ。謙遜しているのは、氷流の方だろ」
「え?」
俺が謙遜している?
思いあがっているの間違いではなく?
「何を不安になっているか、知らないけど、俺は、氷流が可愛くて仕方ない。下手したら、だらしない顔になるから、踏ん張っている」
「俺、も…実は、宮田を見てて、だらしない顔にならないように、頑張っている」
「お揃いだな」
☆5
「お、お揃い」
お揃いって、何だか、仲良しみたいで嬉しい。
「…………氷流、俺さ、ずっと言いたかったことなんだけど」
「何?」
「な、名前で、そろそろ、名前でいいんじゃないかな?」
「何が?」
「真、佐って、呼びたい」
顔を真っ赤にして宮田は俯く。
カッコイイ宮田が、今は可愛く感じる。
「それから、俺のことは、誠一って呼んで欲しい」
「う、うん、俺も、そうしたい」
「ありがとう、真佐」
「いや、そんな、俺こそありがとう、嬉しいよ、せ、せせ、誠一」
なんだか、名前を呼ぶだけなのに、恥ずかしくて、俺は上手に言えなかった。
なのに、誠一は、ただただ嬉しそうに俺のことを見つめて、微笑む。
「真佐、俺はさ、真佐がそばに居てくれるだけで、くだらない毎日が、特別になるんだ。だから、だからさ、俺のために何かしたいって思ってくれるなら、これからも、一緒にいてくれ」
「う、うん!」
☆あとがき
雪様。
過去の二人の短編小説でした。
甘くしてしまったのですが、大丈夫でしたでしょうか。
かなり不安ですが、楽しく制作させていただきました。
本当に、フリリクありがとうございました。
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