「じゃあ、俺、完全空気だから、帰らせてもらうな!」

松田さんはとても良い笑顔で去って行った。まるで一仕事終えたような清々しさだった。もしかしたら、松田さんなりに、俺とたーくんのこと心配してくれたのかもしれない。

「……アキラ、どないして、あいつに、キスの仕方なんて聞いたんや?」

「え、ああ、俺、そんなこと聞いてないし。松田さんが勝手に」

「は、え?」

「たーくん?」

「は、はめられてしもうた」

涙目になって、たーくんは俯いた。きっと、さっきのこと思い出して、恥ずかしくていたたまれなくてしかたないんだろう。俺も、とてもいたたまれない。

「………あーでも」

俺は頑張って唇を動かす。

「たーくんに教えてもらえるのは、嬉しい」

「アキラ?」

「たーくんがどうしてもって言うなら、俺……」

肝心なところで俺は緊張して、言葉が出なくなる。
情けない。悔しい。
動け、動けよ、俺の口!



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