屋上に出ると、空は澄み渡っていて、とてもすがすがしい気持ちになった。
俺はくるっと一回転をすると、佐恵子と向き合って笑う。

「経験不足なんだ、たーくんって」

「?」

「たいがいさ、子どものうちにいろいろ経験するでしょ。初恋、失恋、成功、失敗、喜び、悲しみ、喧嘩、理不尽、などなど。でさ、いろんなこと経験して、いろんなこと知って、大人になって、ある程度はこんなもんか、と現実を受けとめることができる。それは小さい頃に積み重ねてきた経験がものを言うんだ。それに子どものうちは傷の治りも早いし、取り返しのつくことや、親が守ってくれることの方が多いんだよ。でもね、大人になると全て自己責任だし、傷の治りも遅いし取り返しのつかない事の方が多いんだよ。学ぶってことから、退いてしまっているし、新しく何かを受け付けるのってかなり難しくなる。固定観念も芽生えているし、今まで自分の培ってきたものを否定されると馬鹿みたいに怒りだす。おもしろいよね」

「いえ、ちっとも」

「ああ、佐恵子ならそう言うだろうなって思っていた。ていうか、たーくんは望むことをしない奴だったろ。だから、今までは何があっても平気だった」

「ええ、そうですね、わかってましたよ、私。たーくんが私に興味ないことくらい。でも、そばにいることはできた。それだけでよかったんです。私、否定しない、居心地のいい場所を提供してくれる彼が好きだったんだと思っています。だから、松田さんが私をいじめて遊びたい気持ちでお話下さったとしても、ちっとも、痛くありません」

「そうか、残念。君の泣く顔を、見てみたかったんだけどな」

「仮に泣くとしても、意地悪な人がいないところで泣きます」




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