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「落ち着いた?」
「う、ん」
「ごめんなぁ。アキラを困らせたかったわけじゃないんやで」
そっと、たーくんは俺の身体を離すと、優しい手つきで俺の頭を撫でた。
撫でられる意味がわからなくて、俺はまた困った。
「とりあえず、俺はね、ツボを買って満足していたんだ。ツボを買えば、アキラが幸せになるって言われたこと信じとったし、それでええって思うてた。やけど、ツボ売りの人に言われたんやわ。他人のことを考えるのはいいことやけど、自分のこともちゃんと考えないと意味がないよって。したらさ、俺って自分のことなんてどうでもええって思うてるやろ。だから、駄目なんだって、ツボ売りの人に説教されてな。ああ、ほんまやなって、思うた」
悲しそうにたーくんは瞳を伏せた。
俺はたーくんに説教をしたツボ売り詐欺師の顔を見てみたいと思った。
「もしも、アキラが俺の幸せを願ってくれるんやったら、俺は凄く嬉しい。やけど、アキラが幸せやないんやったら、俺は、アキラが俺の幸せを願ってくれようと俺が幸せになろうと、嬉しくない。そういうことやねんてって、上手に説明できとらんな」
「……なんとなく、わかるような気もする」
「ほんまに? あ、ツボ売りの人は最後にこう言っとった。本当の幸せはお互いに幸せなことを言うんやて。て、いうか、俺はアキラと一緒におれるだけで幸せなんやけどな」
いつも願ってばかりでごめんね、と、たーくんは言った。
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