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「みたいな、感じで、一目惚れした家出少年を連れて帰ったから?」
喫煙室で、俺は職場の先輩に、同棲していた彼女と別れた理由を聞かれて、そう説明した。
「たーくん、お前な。俺、お前のそういう正直で、真っ直ぐ、嘘を吐かないところは、さ、大好きだよ。だが、な、あまり思ったことを全て口に出すな」
「先輩だから、ちゃんと話したんですよ?」
「……あーはいはい」
どうせ俺は酸素を吸って二酸化炭素を出す哺乳類ですよ、と先輩は言う。
「佐恵子もお前みたいな奴に騙されて可哀相に」
「俺、別に騙してなんか……」
「お前にその気はなくても、相手は騙されたようなものだ。知らなければ、全てが許されるとでも思っていたら大間違いだからな。たーくん」
「…………」
「それから、その中学生。家出したのを拾ったのはいいけど、下手したら、誘拐犯扱い受けるくらいのことしでかしてんだから、気をつけろよ。まぁ、俺としては、ワイドショーにたーくんの顔写真がのるならば、録画したいほどなんだけどな。いちお言っておいてやる」
親切な先輩はそれだけを言い残して、喫煙室から出て行った。俺は先輩の言葉を頭の中で繰り返し再生する。が、やっぱり、罪悪感も、恐怖心も浮かんでこない。結局俺は「しかたないやんか」と呟くことしかできなかった。
ああ、そうだ、神様が俺に人間らしい感情を与えてはくれなかったせいだ。
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