ゆったりのススメ




=ブラックside=


完璧にしたい、完璧でありたい。
誰が見ても完璧で恥ずかしくない存在でありたい。

それがホワイトの信念でした。


*****


昔から、ホワイトは身体が弱く成長の遅い子でした。
そのせいで、幼い頃はよくからかわれたりもしていました。
私からすれば、単にホワイトが女の子のように可愛かったのが原因だと思うのですが。まぁ、年頃の子どもたちのすることは目に余るものもありました。助けられなかった、守り切れなかった、私も私なので、彼らを責めることはできませんが。
時たま、悲しそうな顔をしているホワイトを見るたびに私は胸が痛くなります。それは、ホワイトが悲しんでいるのが辛いのか、守り切れなかった自分自身を思い出して悔やんでいるのか、どちらかわからない痛さであります。

「……最近、ホワイトが、招き猫の世話をしているんだけど、理由知らない?」

ライトグレーはものすごく不本意な顔で、私に聞きました。残念なことに私にも理由などわかりません。ある日、ふと、ホワイトが招き猫を持って帰ってきて、自分の部屋に飾り、誰が見ても過剰な程に大切にしていることくらいしか、わからないのです。ですから、気になって、ふとホワイトに聞いてみても、彼にはその自覚がないようで、不思議そうな顔をするだけで、何の解決の糸口も見つかりません。

「ていうかさ、単刀直入に聞いてきてよ。僕は自分が悪者になるのは嫌だから、ブラックにお願いするね」

可愛らしく笑ってライトグレーは言いますが、この子は可愛い子ぶるのが趣味なだけなので、私は騙されません。といいますか、騙される騙されないの話以前に、引き受けてしまうのが、私のスタンスで。


そう、ですね。
こうして、今、私はホワイトの部屋の扉をノックしました。

返事もなく、無表情なホワイトが顔を出します。

「ホワイト。招き猫、自分で買ったのですか? それとももらったのですか?」

初めっから、こうやって聞けばよかったんだと、私は今さら気が付きました。ライトグレーにつられて遠まわしな聞き方しかしなかったのが、招き猫の謎を増やすきっかけになっていたのでしょう。

「もらった。ビビッドに」

「ビビッドくんに?」

「うん」

「そうなのですか。彼とはお友達なのですね」

「違う」

「でも、そんな素敵な贈り物を頂くのですから、それなりに仲良しなのではないでしょうか?」

「……そうなのか?」

「おや、違うのですか?」

私はホワイトが彼に苛められていないかと、危惧してしまいます。

「あいつは、口うるさい」

「それはきっとホワイトのことを気にかけているのですよ」

「……気にかけられる筋合いはない」

「そうですか?」

「…………」

少し悩んだ顔をして、ホワイトはコクンと頷きました。

「俺は完璧な存在であるはずだ、心配されることなんてない」

「ホワイト…」

「あいつはいつも調子のいいことばかり言う。いつも自分の意見ばかり言う。俺の意見を聞こうともしない。俺は……友達だなんて思っていない」

「……それはきっと、ホワイトが躊躇っているからでしょう」

「?」

「ビビッドくんはホワイトが一生懸命になって意見を口にしたら、きっとホワイトがビックリするほど真剣になって聞いてくれると思いますよ」

「なんで?」

「年長者の感と言ったものでしょうか。ペールさんもペールさんでホワイトに甘いですが、ビビッドくんもかなり貴方には甘いですよ」

「……そうか?」

「一度、試しに、やってみてください。私が保証します」

「……考えてみる」

パタン、とホワイトは部屋の扉を閉めてしまいました。まぁ、招き猫がどういったものかわかったので、よしとしましょう。

「あ、でも」

ライトグレーにこの話をしたら、彼は怒るでしょうね。どうしましょうか。私はホワイトの部屋の前で悩み出してしまいました。すると、すぐそこの曲がり角から、まがまがしいオーラを感じ、振り向くと、ライトグレーがいました。どうやら、会話は全て聞いていたみたいです。

「……だ、そうですよ、ライトグレー」

「はぁ! 認めないし!」

「ちょっと何処へ?」

「ビビッドのところだよ」

他に何処に行くって言うんだ。そう言って、ライトグレーは家を飛び出して行ってしまいました。やれやれ。

「ホワイト、最後に一つだけいいですか?」

私は返事のない部屋に向かって、言葉を紡ぎます。

「完璧なんて無理だ。出来る範囲で頑張ろう。そうしよう。考え過ぎるのはよくない。不安に思ったりするもの駄目だ。何かあったら、いつでも私に相談して。私はいつでもホワイトの味方ですから」







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