永遠の詩
2012/03/11 11:56

「俺の何処が好きだと言えるんだ?」

「え……」





  ―――永遠の詩―――





突然のことに俺は思考がついてこなかった。俺が必死の思いで告白した時『何を馬鹿なことを言っているんだ』と簡単に片づけてしまわれた、会長が、今さら俺の告白の言葉の意味を聞くだなんて。会長らしくない。

「おい、どうした?」

二人きりの生徒会室。夕暮れ時のオレンジに包まれる会長。雑用の書類整理をする俺の手が震える。どうしてくれるんですか、会長。

「いえ、ちゃんと覚えていてくれたんだなって、思って」

俺の告白なんてなかったものにされているとばかり思っていた。

「忘れるわけねぇじゃん」

「そうですか。じゃあ、お返事考えてくれたのですか?」

「いや。意味がわからない。どうしてお前みたいな奴が俺を好きなんだ?」

信じられないとでもいいたげに会長は眉を寄せて、まるで無関心のようにそっぽを向く。でもね、会長、震えていますよ、肩。緊張しているのかな。やばい、可愛い、会長。

「お前は、勉強もできるし、媚を売るのは上手だし、顔だって良いんだから、たくさん相手は選べると思うんだ」

「そうですね。俺、完璧でしょう。で、選んだのが貴方ですよ、会長」

「……軽いノリで言われると余計に信じられないんだけど」

「じゃあ、真剣に、もう一度告白したら、会長はちゃんと考えてくれます?」

「そういう、わけじゃ、なくて」

「どういうわけなのですか? 下手にこの話題に触れられると、俺、期待してしまいますよ?」

「期待、しても、いいんだが、そうじゃない」

「え?」

「あ!」

しまったとあからさまな雰囲気を醸し出して、会長は俯いてしまった。が、すぐに「か、勘違いするなよ!」と慌てて口にされる。ああ、もう。

「ええ、勘違いだなんてしませんよ。会長、初恋もまだでしょ」

「何故に、それを、お前が」

「だって、慣れているようにみえて、ぐらつき過ぎですよ。ただ好きだって言われただけで、ここまで意識してもらえるようになるとは思いもしませんでした」

そう言って俺は書類の束を机でトントンとそろえる。会長はさっきから手をとめたままだ。

「お前は、ガッカリしないのか?」

「はい?」

「俺、この見た目だし、遊んでそうだろ。別に遊んでないが」

チャラチャラした格好をさして会長は言う。確かに初めは遊んでいると思った。今になっては全てがデマだとわかっているが、会長に対する噂話は尾びれ背びれが激しい。まぁ、それもこれもこの人が鈍感なのが悪いんだ。

「見た目どおりじゃなくて、ガッカリしないか?」

「いえ、俺会長の見た目も好きですが、他にもたくさん好きなところあるし、遊んでいない方が、いいですよ。嫉妬しちゃいます。本気じゃないとしても会長に誰かが触れるだなんて想像したくないですね」

あははと俺は世間話のように笑った。

「俺はこんな感じですが、会長は、俺のことどう思います?」

「あー…」

「はっきり言ってくれていいですよ。男に興味ねぇーって」

「お前は」

「俺も男に興味ないですからね。だから、今の俺のこの感情はどうしたんだろうかと、不思議でなりません」

「俺は、女が苦手だ」

「え?」

「そんなに驚くことかよ……」

「だって」

「ああ、そうだな。あれだけ女にちやほや囲まれて笑っているし、変だろ。苦手とか。俺自身、おかしいなって思う。可愛いとは思えるんだが、どうも怖いんだ、女は何を考えているのかわからない」

「俺は会長が何を考えているのかわかりませんが、怖くないですよ?」

「なんで?」

「貴方になら、傷つけられても、いいと思っているからですよ」

利用されるだけでもいい。振り向いてもらえなくてもいい。

「それなりの覚悟をもって粘り強く、愛しています」

「おま…」

「はい?」

「そういうことは、そういうことは、簡単に言うんじゃない!」

「え?」

「え、じゃねぇし」

会長はそう言って振り返ると俺のもとへ歩いてきて、俺のネクタイを掴んだ。カツアゲされているように、傍から見れば見えるかもしれない。

「そういうのはちゃんと相手の目を見て言うものだ」

「会長、愛していますよ?」

「……お、俺も、その」

「会長、大切なことを言う時は相手の目を見ていうものじゃなかったのですか?」

「お前、性格悪いな」

「知らなかったのですか。俺、性格悪いですよ。意地悪したいお年頃でもありますしね」

わざと、会長が言い出しにくくなるように、俺は会話を持って行こうとする。と、会長は恥じらいながら俺に何かを伝えようとする。そんな姿を見ていると、無性に泣かせたくなる俺は駄目な奴だと思う。

「まぁー会長にしたら、俺みたいな、変態に構っている暇ないんじゃないですか?」

「そ、そんな、ことは、ないぞ」

「!」

「俺は、俺も、お前のこと好きだったから」

「え……?」

好きになってしまったじゃなくて?

「会長、それって」

「叶わないって思っていた。なのに、お前、お前、あの日、俺に好きだと言った。信じられなかった。だから、俺、ひどいこと言った。お前の気持ちを受け入れるだけの器もってなくて、傷つけたと思う。ごめん。ビックリして動揺して、その、ひどいことしたって思っている。だから、その、謝りたい」

「会長、そんなの、好きって言えば全て許されますよ」

俺はニコニコ笑ってそう言った。すると会長は顔を真っ赤にして「好きだ」と言った。でもね、会長。それで許されるとでも本気で思っていますか?

「大切なことを伝える時は、相手の目を見て、言うんですよね、会長」

そっと会長の顎を持って、俺の方に向ける。会長は激しく俺から目線を逸らしたがっている。

「恥ずかしいんですか?」

「わ、悪かったな」

「いいえ、そういうの、かなり萌えます」

「あぁ?」

「その顔も可愛い」

「趣味悪いぞ、お前」

「その趣味の悪い男が好きなのは誰ですか?」

ニタニタと笑って会長の瞳を覗きこむと、拳が飛んできた。痛い。俺の腹を殴るだなんて……
ひどい。泣いてやる。と思っていたら、会長がすとんと俺の胸の中に飛び込んできた。どうしよう。とりあえずは、抱きしめ返そう。

「諦めたかったのに、諦められなかった。責任とれ、俺と付き合え、お前が俺のこと好きだって言ったんだから、できるだろ?」





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