世界一可愛い、と思った。彼女が待ち合わせ場所に現れたとき。
「どうかな?」
 と、はにかんだ彼女に、素直な気持ちが口から出そうになって、慌てて飲み込んだ。

(気ぃ抜くと、カワイイって、スキ、って言ってまいそうやねん……)
 胸が苦しくて、寄りそうになる眉を、意識して上げながら笑顔を作った。
「めっちゃ似合おうてる。カワイイ! 花火よりキミを見てまいそうや〜」
「ふふ。クリスくんは女の子の扱いが上手いね」
「あ、信じてへんの? お世辞やないで?」
「うん、ありがとね」
 彼女は人当たりの良い笑顔で、会話を終わらせてしまう。
(カワイイゆうたのはホンマの気持ちやねんのに……)

 彼に言われたならきっと、彼女はもっと喜ぶのだろう。こんなふうに、ただの会話の一つとして流したりせずに、心から嬉しい、と思うのだろう。
その想像はどうしようもないくらい悲しくて、

(なんでキミの好きな人はボクじゃないんやろ)
 なんて、どうしようもないことを考えたりもした。




 真っ暗の空に、光が散る。首を目一杯上に向けて真剣に見る彼女は、隣にいるのにとても遠い。
 手を伸ばして捕まえることは出来ない。クリスは彼女の親友で、恋の相談役なのだ。それ以上でも以下でもないのだ。

「……親友」

 び、と思わず悲鳴じみた声が漏れた。いつの間にか彼女がクリスを見つめている。今、親友、と言った。
 まさか声に出していたのではないかと、背中が冷える。

「……っくりした〜。なになに? 親友?」
 試しに、とぼけてみる。独り言ちてしまったとしたら、どこからどこまでだろう、と記憶を辿るが、自覚は全くないのだからたちが悪いとクリスは自己嫌悪した。

「わたしとクリスくんは、親友、だよね?」
「うん」
 思いを見透かされたような後ろめたさから、不自然なまでに即答してしまい、しまったと思う。
 慌てて「ボクら仲良しさんやもんな!」と笑って、更に墓穴を掘る。

(わ、あかん、めっちゃビミョーな顔しとる!)
何を言うべきかもわからないまま口を開くと、

「なあ、」
「ねえ、」

 奇しくも二人の声が重なり、被せるように花火の音が続いた。これが最後の打ち上げらしい、ハート型の花火が、きらきらと煌めいて夜空に溶けていく。

(こんなふうに溶けて消えてしまえば、楽になるのかもしれへんのに、)



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