「花火大会、一緒に行かない?」



 え。マヌケな声出してもた、とクリスは思った。
 好きな女の子からデートの誘い。嬉しくて頬が緩む、のを抑えながら、努めて平静を装った。

「カレと一緒に行くんやなかったん?」

 自分で口にした言葉に、無性に悲しくなる。彼女の好きな“カレ”は自分以外の男の子。
(カレが誘いにOKしてくれた、ってキミがほっぺをリンゴみたいにして笑っとったのは、一週間くらい前やろか)

 質問を受けて、うん、と目線を泳がせた彼女に、可哀想な質問をしたかもしれないとクリスは後悔する。

「駄目になっちゃった。予定が入ったって」
「そうなんや。残念やね」
 予想通りの彼女の答えに、そう言ってから、
(残念やね、なんてソラゾラしいな、ボク。ゴメンな、ほんまは少しラッキーだと思ってん……)

 彼女の恋が幸せに叶うことを素直に願えない自分を、クリスは恥じる。

「花火見たかったし……浴衣とかせっかく買ったし……」
 ぽつりぽつりと、寂しそうに話す彼女を前に、断るなんて選択肢はなかった。
「そういうことやったらOKやで!」と笑って見せたとき、彼の代わりという立場が胸を痛くさせたが、気付かない振りをした。

 友達のポジションでも、代役だったとしても、彼女の中に自分という存在のスペースがあることが、悲しいくらいに嬉しかった。



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