初恋の女の子と再会した。逢えなければ良かった。
「君は……」
「赤城くん!?」
一流大学の食堂で、僕は懐かしい少女を目にした。
“あの頃よりも美人になって”“すっかり大人びて”などと言う程には、月日は経っていない。現に彼女は、あの日と何も変わってはいなかった。
変わらない彼女に対する僕の気持ちも、そっくりそのままあの日のままで、それが少し苦しい。
「高校の時はごめんね」
彼女は曖昧に笑う。
喧嘩ばかりしたこと?
デートが上手く行かなかったこと?
話を聞かずに誤解したこと?
そのどれも、お互い様だ。僕が彼女を責めるわけはない。
こうしてまた話せた事がたまらなく嬉しくて、もしかして一からやり直せるかも知れない、なんて胸が高鳴る。
「いいんだ。君が謝ることは何もないだろ?」
彼女が笑っている。僕の好きな笑顔。可愛い。
あの頃のような無邪気な恋心が、僕の中で急速に育っていった。
「ありがとう。あのときこんな風にわかりあえたら良かったのにね」
しかし何気なく彼女が呟いた言葉に、僕は打ちのめされた。その一言は、彼女にとって全てが過去の出来事だと物語っているような気がした。
そうだ。もう終わったことだったのに。とっくの昔に?
あの雨の日に僕は、君が好きだったと過去形で愛を語った。
そこで終わっていたんだ。少なくとも彼女の中では。
人混みの向こうで誰かが彼女を呼んでいた。僕の知らない男の声が。彼女を下の名で。
「もう行くね。赤城くんに会えて良かった」
僕は会えなければ良かったと思った。
「うん」
さよならと言うタイミングはいつだろう。
「あのね、赤城くん」
彼女が振り向いた。曇りのない笑顔で、口を開く。
「わたしも赤城くんが好きだった」
僕の初恋はついさっき終わった。そして二度目の恋が始まったんだ。
今度こそ、諦めたくないんだ。
(過去形で愛を語るのは、君を壊したくないから)
君もそうなんじゃないのか?
END
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タイトル(過去形で愛を語るのはきみを壊したくないから)配布元→ヴィア・ラッテア様
URL→http://m-pe.tv/u/?vialattea
20120103