※男の子×主人公←ハリーの片想い
※主人公とは結ばれなかった話です
誰もいない。わたしは静まり返った廊下を歩く。空からは夕陽ももう帰ろうとしていた。
ぺたぺた、聞き慣れた上履きの音と、がらがら、聞き慣れた引き戸の音が静寂に響く。
四角い空間に、均等に並んだ机。その真ん中に、ぽつんとひとつ曲線を描いた物体があって、わたしは驚いた。
「ハリー」
物体もとい針谷幸之進を呼ぶと、その背中が振り向く。悲しげな顔をしていた。だけどそれはこの空っぽの教室によく似合っていた。
「ほんと実感ないね……今日で卒業なんて」
わたしは話しかけたけれど、ハリーは答えなかった。振り向いた顔を正面に戻して、窓の外を見ているようだった。
「何してたの?」
まだここに居たくて、ハリーの傍の机に軽く腰掛けてみる。
「オマエこそ、」
ようやく口を開いたハリーの声は、予想したより明るくて、なんとなくほっとした。
「何しに戻ってきたんだよ? さっきアイツと灯台に……」
「ん?」
そこで何故かハリーの語尾が小さくなって、私は耳を近づける。
「……何でもねぇ。さっきお前が校門から出てったの、見えたから」
「あ、そうなんだ。うん、ロッカーに忘れ物しちゃったみたいで。ついでに最後だし教室見たいなって思ったら、ハリーがいて、びっくりしちゃった」
ハリーはまた黙る。きっと卒業するのが寂しいんだとわたしは思った。騒いで過ごす毎日は、本当に楽しかったから。
「あー……泣けて来ちゃうよう」
卒業式で涸れるほど泣いたというのに、まだ涙が出た。ずびーっと鼻を啜ると、きったねぇ、とハリーが笑った。わたしもえへへと笑った。
「わたしハリーと会えて良かったな」
「いきなり何だよ? 気持ち悪ぃ」
「ひどーい! だって卒業式だもん、いいじゃない」
今日で終わりなんて嘘みたいに、ハリーが明るく笑うから、わたしも笑ったけれど、それが最後だと思い出すと、やっぱり涙が流れた。
「オイ、泣くなよ」
「泣くよ! もうハリーと毎日会えないんだもん」
目を擦りながら言ったわたしの言葉に、ハリーの呼吸が一瞬止まった気がした。気のせいかも知れない。瞼を開けるとハリーはいつもの不敵な笑みを浮かべていた。
わたしは不意に、本当に突然、なぜだか気付いてしまったんだ。
ハリーは、もしかしたら私を好きだったのかも知れないって。
「つかべつに永遠の別れでもねぇんだし!……オレらダチだろ」
「うん。そうだよね。ありがとう」
こういう優しさが大好きな、大切な大切な友達だった。その思いがハリーと交差していないことが、ちょっとだけ悲しかった。
「でもなー、オレ様はすぐビッグになるからな!そうなったら簡単には会えねぇかも。忙しくて」
ハリーが自信満々にそう言うから、
「えぇー! オフの日が出来たら、変装してお忍びで出掛けようよ」
私はきっとそれが現実になるような気がして、約束ねと先行予約をとった。ライヴチケットよりもとるのが難しい、ハリーの友達特等席だ。
それが誇らしくて、ハリーと過ごした3年間があまりに眩しくて、やっぱりまだ涙が止まらない。
ごめんね、と言うのは間違っているかも知れないけれど、この優しい友達を幸せにできないことを悲しく思う。それはきっと、おかしい事なんかではないのだと、わたしは考えていた。
END
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GSの卒業式はいろんなドラマが詰まっていますね
20120324