携帯のボタンを押す手が震えている。天童壬はそれを、ダセェ、と思いかけて、首を振った。
 何かに一生懸命になるのは、真面目に生きることは、格好良いことだよ、と穏やかに笑う彼女の声を思い出す。
 彼女がいてくれたから、自分に胸を張れる今があるのだ。

 RRR、聞き慣れた呼び出し音がいつ途切れるかと待ち構えている今は、下手をすると本番の時よりも緊張しているかもしれない。
 音が止む。彼女のもしもし、を聞いて、なぜか泣きたくなった。

『壬?』
「受かった!」
 その一言で良かった。壬も彼女も、この一年間それだけを求めていた。
『本当!? 壬、良かった、おめでとう』
 揺れる声を聞けば、いてもたってもいられなくなって、考えるより先に言葉が口をついて出た。

「なぁ、会いたいよ」

 零れ落ちた想いに、うん、と、わたしも、と彼女は答えてくれた。



+  +  +



「壬!」

 人混みを掻き分けて、大きく手を振る彼女を見つけた。
 踵の低いいつもの靴の、聞き慣れた足音すら楽しくて、敢えて近寄らずに、ベンチに座ったまま彼女を待った。

「やったね! 壬! 合格おめでとう」
 目の前に来るなり、壬の手を取ってぶんぶんと上下に降る彼女を、心から可愛いと思う。
「サンキュ。まあ大丈夫だろって思ってたけど、やっぱ嬉しいな」
「うん。わたしも壬なら絶対大丈夫って信じてたよ」
 あの日と変わらない真っ直ぐな澄んだ瞳に見つめられて、気恥ずかしさに壬はわざと目を逸らした。
「なぁ、アレだ。ほら、なんかご褒美とかねーの?」
「もう。壬はそういうことばっかり」

 呆れたような視線に、なんだよ、と言い返そうとして、不意に光が翳った。ふわりと甘い香りが舞う。視界には彼女の服……の胸元の飾り。

「よく頑張ったね」

 包み込んだ頭と背中を優しくぽんぽんと叩く彼女の手は、どこか、眠りたいような懐かしさがあった。まるで、母親、のようだ、と壬は目を閉じる。

「壬、かっこいいよ」

答える代わりに彼女の背中に腕を回し、愛しい体温をぎゅっと抱き締める。
この穏やかな幸せを感じられることを、壬は、彼女と、世界とに、感謝していた。




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壬って飼い主に褒めてもらいたい犬みたいで可愛いですよね

タイトル配布元→ヴィア ラッテア様
URL→http://m-pe.tv/u/?vialattea
20120224
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