2017 Happybirthday
ハロー、ニューワールド


誕生日、なんて。
ずっと、どうでも良い日だった。

ただでさえ、年の瀬の慌ただしい時期であったし、死神なんて仕事をしていれば、いちいち日にちなんて気にしていられなかった。

彼には、何の因果か、一日違いで誕生日を迎える親友がいた。
いつの頃からか、彼女と共に祝う習慣はあった。
しかし、それは彼女の生家が大貴族であったこと、そして彼女自身がその家の次期当主様であり、そういうことに時間も金銭もかける余裕があっただけのこと。

互いに席次に着くようになれば、悠長にそんな時間を作れるはずもなく。
いや、日を跨ぐ頃合いを見計らって時間を作る、もとい、上官の目を掻い潜って、詰所を抜け出していつもの秘密基地へ集まることは容易かった。
そうして二人でこっそり祝いあったことも一度や二度ではない。

けれど、その頃には喜助の元に押し掛けてくる―――または押し付けられる―――女性達の数も年々増えていき、親友は親友で、縁談の話を交わすのに躍起になっていた時期でもあった。

故に、誕生日というのは、歳を重ねるごとに、喜助にとってはただただ面倒な日だと思えるようになっていた。

ずっと、そう思っていたのだ。

彼女に―――、

―――風華に、会うまでは。

********************

はらはら。
はらはら。

「―――雪、ですね」

舞い落ちてきた白い綿のような結晶。
それは、彼女の頬に触れて、すうっと溶けていく。

「寒くはないですか」

問いかければ、彼女はふるりと首を振って、その白い掌を喜助の掌に重ねた。

「寒くはないです」

冬の曇天の下、彼女は変わらず、陰り一つない笑顔を見せた。

「だって、貴方が居てくれるから」

ふと、雲間から眩しいほどの光が射し込んだ。
まるで傍らで微笑む彼女のように、目映い光。

「私は、嬉しいのよ。貴方の誕生日を祝うことが出来て」

―――誕生日なんて、どうでもいい。

小さく呟いた喜助のその言葉ごと包み込むように、彼女は喜助の掌にもう片方の手も重ねる。

「どうして」

「貴方に出会えたことを、貴方に感謝することが出来る日だもの」

「感謝、ですか?」

「ええ」

彼女は屈託のない笑顔でこちらを振り仰ぐ。

「だから、有り難う、喜助さん。私と出会ってくれて」

そう言って微笑む風華の姿は、陽光さえも叶わないほどに輝いて見えた。

誕生日なんてどうでも良かったのは、遠い遠い過去の話。
今は、自身が生まれたことと、そして、何よりも彼女と出会えたことを祝うことの出来る、とても喜ばしい日になった。

―――だから、今度は僕から伝えよう。
―――ずっと側に居てくれて有り難う。
―――もし良ければ、また来年も、側で祝ってくれませんか、と。


(2017 Happybirthday to Darling)


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