『 書 籍 』


ぺらり、ぺらりと頁を捲る、
細く長い指先。

「どうかした?」

「いいえ、なんでも」

「そう?」

彼は訝しみながらも、
思慮深いその翡翠の瞳を手元の書物に向ける。

ぱらぱら、ぺらり。
数頁進んでは、また戻り、進んでは、また戻る。
喜助は時折臥せた視線を鋭くして、
ついでに眉間に皺を寄せて低く唸っている。

ただそれをじっと眺めていた。
厭きもせず。
いつまでも。

彼女はしばらくそうしていたのだが。

「・・・さすがに恥ずかしいんだけどな、」

いまだ手元の書物に視線を落としたまま喜助が呟く。
照れているのだろう、
少し頬が赤くなっている。

そんな彼をますます眺めていたいのだけれど、
止めておこう。

困らせたい訳ではない。
ましてや仕事の邪魔をしたい訳でもない。

けれど、
熱心に書物に向かうその彼の様子を、
まだ眺めていたかった。

名残惜しげに、
彼女はもう一度ちらりと視線を走らせる。


『そんな仕事熱心な貴方に
惚れ直していたの』



そう告げたら、彼はどんな顔をするだろうか。






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