斜陽
白い肌が、酷しいほどの陽射しに反射して眩しい。
ノースリーブの肌からすらりと伸びた白いそれに、引き寄せられるように指先が持ち上がる。
自身とて、皮膚の色は白い方だと思う。身近な親友の肌が濃く、その対比という訳ではなく、男性としては十分に白いのだ。
けれど、彼女の肌の白さは、明らかに己のそれとは違っていた。

「喜助さん?」

庭先で水やりをしていた彼女が、訝しげに振り返る。

「どうしたの?」

「え、ああ...なんでも」

ゆるく頭を振って誤魔化した。
目深に被り直したその奥で、喜助は翡翠の瞳を細めてそれを投げた。視界の端でちらりと捕らえた彼女の足元の影が、酷くはっきりとした闇を象っていた。

「もしかして、少し、疲れてるんじゃないですか?」

「そうかな...うん、そうかもしれない」

疲れてるとか、そんなことで片付けられたらいい。
彼女の白さが、ずっと眩しかった。
光があるからこそ、闇がある。そんなこと考えるまでもない。
永遠に追い付けやしないのに、いや、追い付けないからこそ、闇は永劫、光に惹かれ続けるのだろう。
今の、喜助のように。
手を伸ばして良かったのか。
彼女とともに在って良かったのか。
側に居れば居るほど、より惑い、より惹かれてゆく。

「おいで、」

ちょいちょいと手招くと、如雨露を片付けた彼女が日除けの麦藁帽子を外しながら縁側へやってくる。

「本当に、何かあったんですか?」

琥珀の双眸が不安げに覗き込んでくるのを避わすようにして、彼女の白い首筋に舌を寄せる。珠のように浮かんだ汗を舐める。慣れしたんだ女の香りと、汗の匂いが混ざっていた。

「ん、もう・・・、」

「ちょっと休憩、・・・ね?」

抱き込んだ女の体を組み敷いて、縁側の扉を閉める。
灼熱の日差しは遠く閉ざされて、途端に薄暗くなった部屋で空調の電源をいれた。

「喜助さん、・・・ねぇ、どうしたの?」

「なんでもないよ、」

陰に呑み込まれてしまいそうに見えたことかもしれない。
彼女が白すぎたことかもしれない。
なれば、その彼女を呑み込む闇は、自身なのだろうか。
栓ないこと。そう斬って捨てるのは容易い。
しかし、その小さな針の先のような棘が、酷く喜助の内側を掻き乱していた。
彼女が、酷く遠い存在に思えて。

「なんでもないから、」

燻る熱が早く消え去ってくれればいい。
それが叶わなかったら?
そのときは、彼女も共に堕ちてくれればーーーーー。
彼女を抱き寄せる腕に、力が隠る。

部屋の空調が、いつまでも低く唸り続けていた。


(眩しすぎる光なんて、僕達には要らないんだ)






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