春先の縁側で
「スイートピーにしようかしら。ああ、でもガーベラも可愛いかも」
「次の花っスか?」
「ええ。この間新しい花瓶も買ってきたところだし、何を活けようか考えてるんです」
「へー」
「居間の花と寝室の花は別がいいかしら。ねぇ、喜助さんはどう思います?」
「さてねぇ。アタシには花のことは分からないですし、アナタに任せますよ」
「そうですか?・・・なら、寝室の花はスイートピーにしようかしら。色が淡い方が然り気無くていいかもしれないわね。・・・あ、そうだわ。居間の花は桃の花も沿えて高さを出そうかしら」
「・・・なーんか、随分とご機嫌っスねぇ」
「ふふ、だって春なんだもの」
「はあ?」
「草木が芽吹いて、新たな命が宿る季節でしょう?だから、好きなんです。春って」
「あー、なるほど。アタシも嫌いじゃないっスよ。最近ようやく暖かくなりましたしねぇ・・・ふぁあ、」
「もう、喜助さんたら。まだお昼食べたばっかりなのに」
「仕方ないっスよぉ。食べたばかりで、しかも春なんスからぁ」
「"春眠暁を覚えず"、ですか?でも、喜助さんは季節関係なく、昼間は眠そうにしてるじゃない。もう少し休む時間を一律にしたらいかがです?」
「そうなんスけどね。やっばり始めるとなかなか止められなくて」
「ふふ」
「なぁに?」
「喜助さんて時々子どもみたいだな、って」
「え。それ、アナタに言われたくないなァ」
「どういう意味ですか」
「そういう意味ですよ」
「もう。すぐ子ども扱いするんだから」
「ごめんごめん。じゃ"お互い様"ってことにしましょ」
「お互い様、ですか・・・ふぁ、」
「ありゃ。うつっちゃいましたね、欠伸」
「やだっ、もう、」
「ふふ、ほら、こっちおいで?」
「まだ早いわ」
「何が?」
「昼寝、するつもりなんでしょう?」
「ご名答!今ならなんと大サービスでアタシの添い寝付き♪」
「・・・もう。一時間だけですからね」
「んー、それはどうかなァ・・・」
「喜助さんがどれだけよくお休みだろうと、私は起きますからね。夕飯の買い物もまだ終わってないんですから」
「・・・ねぇ、」
「はい?」
「それ、ボクも起こしてくれませんか?」
「・・・"それ"?買い物、付き添っていただけるんですか?」
「うん。散歩でも、行きましょ。・・・小さい春を、探しに」
「ふふ、有り難うございます」
「ん。・・・こっそり、抜け出したら・・・怒る、からね、」
「ふふ、分かりました」
ゆらゆらと漕ぎ始めた船の行く先が、
麗らかな午後の光のように、
どうか穏やかなものでありますように。