月虹を探しに
「・・・雨、ですね」
「今日は一日こんな天気らしいっスよ」
「・・・みたいですね・・・」
「どうかしました?浮かない顔して」
「いえ、天気が良かったら二人で散歩でもどうかしら、って考えたの。ちょうど紅葉も綺麗だから」
「おや、そうだったんですか」
「ええ。でも、この雨じゃ無理そうですね。また来週にでも、」
「ちょっと待って。この雨、夜には止むかもしれないからさ、夜はどう?」
「夜にですか?私は構いませんけど・・・」
「じゃあ決まりだね」
「でも、夜だと綺麗には見えませんよ?この辺りはそんなに街灯もないし」
「うん、だからね、紅葉の代わりに、月虹を探しに行きませんか?」
「げっこう?月光ですか?確かにそろそろ満月の頃ですけど、それなら縁側からでも」
「そっちじゃなくて、『月』に『虹』って書く虹のコト」
「夜に、虹が見られるんですか?」
「そ。色んな条件が重ならないと見られないんだけどね。色の薄い虹だから、白虹とも呼ばれる虹だよ。見たことないでデショ?」
「・・・ええ。そんな虹があるなんて知りませんでした」
「珍しさからか、幸福を招くって言われてるぐらいだしね。知らないほうが普通じゃないかな」
「喜助さんは見たことあるの?」
「いいや」
「そうなんですか?話ぶりから、てっきり見たことあるのかと」
「うん、だから、探しに行きませんか。二人で」
「今夜?」
「そう、今夜。雨が止んだら」
「雨が止んだら・・・止むかしら、この雨」
「止まなくても行こうよ」
「雨の中を?」
「うん、もしかしたら、帰り際に晴れるかもしれないでしょ?」
「そんなに突然晴れるかしら」
「いいじゃない、細かいことは」
「そんな適当な」
「いいんスよ。それより、月虹を探しに歩き回るから、ちゃんと準備しないとダメっスよ?お茶とお茶菓子と、それから・・・」
考えていた予定が、ふとしたことで崩れてしまうことはある。
けれど、それさえも楽しんでしまえばいいのだ。
彼はそう教えてくれた。
感謝の気持ちと、彼の好物を、鞄にたくさん詰め込んで。
さあ、雨上がりの虹を探しに行こう。
(探し物は見付かりましたか?)