白百合の香りに惑わされて
「・・・百合の花、かな。やっぱり」
「喜助さん?百合がどうしたんですか?」
「いや、昔からよく言うじゃないですか。『立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花』って」
「そうですね」
「美人を表現する喩えですけど、ボクの中ではやっぱり百合の花が一番アナタのイメージに近いなと思ってね」
「百合、ですか?どうして?」
「たぶん、それがアナタの第一印象だからですよ」
「・・・?」
「覚えてませんか?」
「何を?」
「だから、初めて会ったときのことですよ」
「えっと、確か私が夜一さん宛の書類を預かってて、」
「そうそう。それで迷子の迷子の子猫ちゃんが泣いてたんスよね」
「もう!喜助さん!」
「あはは!ごめんごめん」
「いい加減に忘れてくださいっ!」
「まあまあ、そんなに怒らないでよ」
「・・・誰のせいですか」
「だから、ごめんってば。・・・話を戻すけどさ、あのときに隊舎を歩くアナタをみて『ああ、綺麗な人だな』って思ったんだ」
「そう、だったんですか」
「うん。ときどき足を止めて、風に靡く髪を抑えてさ。綺麗でしたよ、すごく。・・・だからボクの中では、この三つなら百合の花がイメージに近いんだ」
「もう、忘れてって言ってるのに・・・でも、私も、例えるなら百合がいいです」
「おや。それはどうして?」
「鈴蘭の別称、ご存じですか?」
「ええ。『君影』でしょ?」
「ふふ。それもあるんですけど、他にもあるんですよ?」
「へぇ。どんな名称なんですか?」
「『谷間の姫百合』。山間に花を咲かせることからそう呼ばれるそうですよ」
「なるほど」
「だから、例えるなら百合の花がいいです。喜助さんにもそう思ってもらえてるなら、尚のこと嬉しいです。とても」
「百合といい、鈴蘭といい、見た目は清廉潔白って感じなのに、目眩がするぐらい甘い香りがするんだよね。ホント、アナタみたい」
「・・・もう、」
「ああ、でも、気を付けないとダメだよね」
「何をですか?」
「だって鈴蘭って有毒性の植物でしたよね?あんまり魅せられると毒にやられちゃうかも」
「確かに有毒性ですけど、そんなにすぐ大事には至らないですよ」
「でもボクはもう手遅れだよ、」
「喜助さん?」
「だって、もうこんなにもーーーー」
アナタの香りに、惑わされているのだから
(或いは媚薬のように...。)