私だけの貴方でいて

「うーん、」

「どうしたんですか、喜助さん。鏡なんか取り出して」

「いえね、さっき散歩してたら、買い物途中の母子とすれ違ったんスけどね」

「はあ、」

「そのときにね、オンナノコがアタシを指差して言うんスよ、『ママ、みて!イケメン!』って」

「あら、良かったじゃないですか」

「残念なことに、その後、母親がその子に向かって『しっ!違うでしょ!』って言うんスよ!?違うってどういうことですか!?自分で言うのもなんですけど、アタシそれなりに"いい男"だと思うんスよ?それなのに、ねぇ?・・・さすがに傷付きましたよ。やっぱりこの格好が悪いんスかねぇ、」

「・・・ふふっ、」

「何笑ってるんスか、大事な彼氏が貶されてるっていうのに
!」

「ごめんなさい、・・・喜助さんはもう充分すぎるくらい男前よ?」

「・・・笑いながら言われてもね」

「だって、そんなこと言われて容姿を気にしてる貴方が可愛くて」

「あのさ、前も言ったと思うけど、男がそんなこと言われたってちっとも嬉しくないんだって」

「ふふ、ごめんなさい」

「・・・しかもまだ笑ってるし、あーあーボクって本当に愛されてるのかなぁ」

「もう、仕様のない人。・・・ねぇ、喜助さん。私は今の喜助さんの方がいいと思ってるんですよ?」

「ハイ?」

「だって、そんな小さな女の子にも分かっちゃうような男前さを、この帽子が隠してくれてるんでしょ?だったら、このままでいてほしいです。貴方の魅力を分かってるのは、私だけでいいんですから」

「え、と・・・それって、もしかして嫉妬してくれてるんですか?」

「・・・いけませんか?」

「いいえ、ただ、・・・ただ、アナタはそんなタイプだと思わなかったから」

「私だって嫉妬くらいします。ただでさえ、喜助さんは女好きする容姿なのに、そのうえ気が利くし、女性に優しくて・・・この間来てたご婦人にだって優しくしてたでしょ?最近来るご婦人方は皆喜助さん目当てな人ばかりだし・・、喜助さんが接客してるときはもう気が気じゃないですもん。・・・・・・聞いてるんですか、喜助さん?」

「いや、あの、すいません・・・充分聞かせていただいたのでもう勘弁してくれませんか」

「・・・喜助さん?何してるんです?」

「だからね、そういう可愛いことを言うの止めてくださいって、ホント」

「そんなこと、・・・ただの子どもじみた、みっともない嫉妬だもの」

「それが可愛いって言ってるの。ところで、」

「きゃっ、やだ、離してっ」

「やられっぱなしは性に合わないんスけど、まあ、アナタなら」

「ん、・・・まって、ゃ」

「分かるよね?」


貴方のことを多くの人が認めてくれるのは嬉しいけれど、誰かに盗られそうで不安になるの。
だから、貴方の魅力を振り撒くのは、私だけにしてほしい。
ーーーーなんて、過ぎた我が儘かしら







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