夜明け

長い、とても長い、その夜はひっそりと終わりを告げた。
降り立った先には、強烈な光が射してしていて、手を翳しながら周りをみた。

現世で初めて浴びた朝焼けの光は、ひどく眩しかった。


そこには、小さな日本家屋があった。

降り立つと同時に「達者でな」と黒猫の姿で、夜一
が行方を眩ませた。
義骸に入っていない彼女は、ここに留まって居られない。

その後、怪我の具合を見つつ一昼夜。
真子達が目を覚まして、喜助が彼等を集めた。
また説明をするためだ。

風華は一人、縁側から庭先に出て、ぼんやりと鉢植えを眺めていた。
此方に移動する前に、夜一に運び出してもらったものの一つだ。
赤い花は見頃を迎えていて、鮮やかに咲き誇っている。風に揺られる花のように、何も考えずに居られたら。
そんなこと、考えるだけ無駄なことだ。

もう、戻れない。
賽は、投げられたのだ。

じゃりと地を踏む音がして振り返る。
霊圧がない、というのは気配を察しづらくて、なかなか心臓に悪い。
きっと、これからこんなことにも慣れていくしかないのだろう。

「ひよ里ちゃん、」

「なんや、エライことになっててんなぁ」

いつも元気に跳ねている彼女の髪は、萎れた花のように項垂れてみえた。
負傷自体は多かったものの、一つ一つの傷が浅かったせいか、ひよ里はかなり早く目覚めていたので、事のあらましをある程度話していた。
だから、皆と揃って最後まで聞くわけでもなく、風華の元へ来たのだろう。

怒りや、焦り、そういったものは彼女からは感じられなかった。
ぽすり、と音をさせて腹に抱き着いてくる。
まだ、受け入れられていないだけなのかもしれなかった。

「そう、みたいだね」

どう返すべきかが、分からなかった。
元は同じと言い聞かされていても、やはり切り捨てるべき敵と認識していた存在と同じ存在になったのだと言われては、気分の良いものではあるまい。
ましてや、自分の咎ならまだしも、巻き込まれただけなのだ。
いい実験体だったよ、と。

そんな話を、どう受け入れろというのだろうか。

初夏に移り変わろうという今の風は、生温く肌に纏わりつくばかりで、一向に晴れた気分になどなれそうもない。

「なぁ、風華」

「なあに?」

腹にぐりぐりと頭を押し付けたまま、ひよ里が口を開く。
こうして話すときは、大抵言いづらいことを話すときだと知っている。

「風華は、関係なかったんやろ?」

「うん、そうね」

「それでも、着いてきたんやな・・・」

尻すぼみではあったが、確かに最後に「喜助に、」と告げた彼女の言葉に頷いて破顔する。

「うん」

「後悔、してへんか?」

「後悔はきっとするわ。それが、いつ、どんな状況かは分からないけれど」

じっと見詰めてくる親友に笑いかける。
そう、後悔なんて、後からやってくるものなのだ。
だから、今の状況で最善策がどれであったかなど判断できるものではない。

後悔しない道など、きっと初めから用意されてはいない。
いつだって、石橋を叩き、万全を期して進み、それでも尚、後悔するに違いないのだ。
けれど、それで構わない。


「でも、それが、私の選んだ道だから。だから、どんな後悔も受け入れるわ」


喜助の側に居られるのなら。
全てを引き換えにしてもいいと思えたのだから。
だから、構わない。
後悔も何もかも、全てを受け入れる。


「なんやねん。今までで一番いい顔しとるで」

「そう、かしら」

呆れたように肩を竦める友の様子に苦笑する。
決意は固く誰に何を言われようとも今さらだ。
それが現れているのだろうか。

「もし、」

「?」

「もし、喜助に泣かされたら、真っ先にウチに言うんやで?」

「ありがと、ひよ里ちゃん」

まだ腰に抱き付いたままで、視線だけをこちらにひたりと合わせてきた親友の頭をなぜる。流されたと思ったのか「約束やからな、」と口を尖らせている親友にしっかりと頷いてみせた。

夜一といい、ひよ里といい、どうしてこう気を配ってくれるのだろう。
友人に恵まれ過ぎている。こんなに恵まれていて、いいのだろうか。
自身には、勿体無いことだ。

喜助の側に居たいと、我が儘を押し通せただけでも十分なのに。
何があってもきっと、大丈夫だ、と思えた。



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