序章

花が、咲いていた。

ああ、今年もそんな時期になったのかと、居間で一人、一服していた喜助は庭先をぼんやりと眺める。

庭に植えられた植物のほとんどはテッサイが手入れしているものだが、その中に小さな鉢植えが二つ。
それは自身の妻が大事に大事に手入れしているものだ。
その鉢植えに、今年も赤い花と白い花が並んで咲き誇っている。

鮮やかな深緑が初夏に移り変わろうという今日この頃。長閑な昼下がりにそよぐ風は柔らかく、ほんのりと熱気を孕んでいる。
その風に赤い花と白い花が揺らされて、戯れんでいるかのよう。
それはまるで、自身と彼女を表しているようで。
嬉しい反面、なぜか今更に気恥ずかしさを覚えてしまい、喜助は視線を外す。
そうして、思い立って煙管を片付けると立ち上って台所へ向かう。

「風華サーン、そろそろお茶にしませんか?」

並んだ花に触発された訳ではない、と思う。
けれど、いつも顔を会わせているはずの愛しい彼女と戯れたくなったのは確かだった。





並んだ花は姫薔薇と鈴蘭。
またの名を紅姫と君影草。
これは、その名と同じ刀を有する二人の物語。

- 1/1 -


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -