天竺葵

ウチは十二番隊副隊長、名前は猿柿ひよ里。
ウチのこと知らんて?
後でちょっと十二番隊に来いや。教えたるから。
て、そんな話はどうでもええねん。

最近優秀なウチの頭を悩ませることが続いててんけど、ようやくまとまったらしいわ。

でもそのまとまった、が納得いかんから、どうしても、出会い頭に足が出てまうんやろうなぁ。





戸を開けた瞬間、視界に入ったへらへらしただらしない顔に目掛けて飛び蹴り。

「顔が痛い!」

アイツは顔を抑えてしゃがみこむ。
けど、すぐに手を離して「朝から酷いじゃないっスか」とかなんとか言いながらへらへら笑うコイツは厄介なことに、ウチらの隊長である浦原喜助や。
ウチはまだ認めてへんけどな。


「あ、おはよう、ひよ里ちゃん」 

続いて出てきたんは、女神かと思えるほど美人なウチの親友、跡風華。

「おはよう、風華。今日も寒いで」

「そうみたいね。あ、朝御飯今からなんだけど、一緒に食べていく?」

「食べる食べる!ウチ、風華の作るメシ、めっちゃ好き!」

「ほんと?ありがと、ひよ里ちゃん」

真顔やと高嶺の花っぽい雰囲気やけど、口許を隠してこうして笑うと意外と幼くみえる。なんや、女の子って感じや。
要は女から見ても惚れてまいそうなぐらい、美人で可愛いってことや。

「浦原さん、大丈夫ですか?」

「大丈夫っス。最近ひよ里サンのこれがあると、ああ、仕事だなぁって思うんスよ」

「なんですか、それ」

ふふ、と笑う風華を、喜助のヤツはだらしなくにやにやしながら見ている。
なんか知らんけど、この二人が付き合うことになったらしい。
ほんま憎たらしいヤツや!


ウチかて、親友の幸せそうな顔見るんは嬉しい。
せやけど、なんでコイツやねん。
風華にはもっとエエ男がおるはずやのに。
早よ別れてまえ!って言ってやりたいのに、風華があんまり幸せそうにしとるから言われへん。


結局その後、三人で、ウチとアイツは十二番隊、風華は四番隊の詰所に行く羽目んなって、腹立ったからあのアホの背中を蹴っ飛ばしたった。
もちろん、風華と別れてからやけど。


「喜助、お前、約束分かっとるやろうな」

「モチロン。風華サンは、ボクのすべてですから」

しっかりと頷いてみせたコイツの態度がまた頭にきて、今度は脛を蹴ったった。
「あいたっ!」と大袈裟に痛がっとる喜助を見て、ちょっとだけやけど、すっきりした。

コイツが約束を破棄するようなことになったら、ウチが承知せえへん。

約束することになったときのことを思い出すと、今でも苦い気持ちになる。



***

あれは秋ぐらいの話やったと思う。

廊下で風華を見付けて、声を掛けよか、と思ったら、他にも何人かおって。

何の話してんのやろ、と思って近寄ったら、突然一人の女が風華の髪を切ってん!
めっちゃビックリして、すぐに声を掛けた。
風華は全然驚いてなかったみたいやけど。

アイツら、風華が喜助に気に入られとるからって嫌がらせしとったらしい。
ウチに言わせたら、へらへらだらしない喜助の顔も、隊の女死神からは優しくて何でも受け止めてくれそう、になるらしい。
アンタら、ちゃんとアイツのこと見てるんか?って思ってたけど、風華までそう思ってるとは知らんかった。

今まで一緒におって、あんなに切なそうな顔した風華を見たのは初めてやった。
これが、女の顔なんやな、って思った。
風華には笑っていてほしい。
ウチの大事な大事な親友やもん。

せやから、ウチは応援したい。
そんで、風華を送り出したってから、詰所に戻ってアイツらを叱り飛ばしてやった。

もう風華に余計なことすんな、って。


なんや騒がしいヤツや思われとるみたいやけど、ウチはこういうのは苦手やねん。
女子のいざこざなんさ関わらへんのが一番や。
でも今回ばかりはそうもいかんから、きつめのお灸を据えたった。

で、もうええで、っと声を掛けてアイツらを解散させたところで、や。
計算しとったみたいに、あの憎たらしいヤツが、局所から出てきおった!


『なんかあったんスか』

『知らん』

『そっスか』


すごすごと肩を落として帰る女子連中を見ながら、喜助が生意気にも聞いてきおったから、知らん振りしたった。
せやけど、アイツは顔をしかめた後、更に腹立つことにあっさりと引き下がりおった。
気になってしゃあない、って顔しとる癖に。
こんなときだけ物分かりのいい顔しおって。

『ひよ里サン、すみませんが、ボクちょっと用事があるんで、今日は早めに上がります。局の方は伝えてあるんで、隊の方だけお願いできますか?』

『なんやねん、用事って』

『ちょっと、ね』

へらりといつものように腹の立つ顔で笑ってーーーなかった。
内緒話でもしとるみたいな、なんや企んどる顔で。
どっかでコイツのこんな顔見たな、と思ったら、思い出した。マユリを引き抜きおったときや。

そのまま帰ろうとしとったから、慌ててウチは背中を蹴った。コイツの場合、背ェ高い上に下駄なんぞ履いとるから、腰辺りやけど。

ただ、羽織の十二の文字は避けといたる。
だってこの十二って文字をウチが穢す訳にいかんやろ。ウチの誇りやねんから。コイツもそういうところは分かっとるらしく、ウチが古巣を貶してもなんも言わんけど、他所から隊やら局やらをとやかく言われとるときは、ちゃんと対応しとるらしいから、多少認めたらんでもないこともないかもしれん。
・・・アカン、やっぱ無理や。

『痛いっ!!何するんスか、ひよ里サン』

『喜助ェ!』

『ハイ?』

蹴られた辺りを擦りながら、喜助がこっちを見下ろした。
見下ろされるんが、一々ムカつく。


『風華のこと泣かせたら承知せえへんからな』

『・・・約束します』

『ならええわ』


真面目くさった顔で、頷きおった。
なんや、それだけで分かったみたいな顔しとった。
へらへらしとる割りに、周りのことはよう見とるみたいやから、ウチより先に風華のことにも気付いとったんかもしれん。
ただ、その時にコイツも風華のことを大事にしたいんやな、ってことは分かった。
ウチに出来ることなんかこんなもんや。

あとは、風華次第やで。


***

それからしばらくして、なんや付き合うようになったらしい。
で、風華と居るときのコイツとだらしない顔と来たら!
しゃきっとせいや!とついつい蹴ってまうぐらい、拍車がかかっとる。



「あ、でもね、ひよ里サン」

「あ?」

「風華サンのこと泣かせない、って約束なんですけど、」

「なんや」

「違う意味では啼かせちゃ、・・・・痛い痛い痛い!痛いっス!!ハゲたらどうするんスか!!?」

何の話かと思って聞いとったら、最低なこと抜かしおったから、背中から飛び乗って、髪の毛をこれでもかと引っ張ったる。
ちゃんと羽織の文字は避けて飛び乗るあたり、ウチも器用やろ?

なんでもええけど、コイツ、わざとこういうこと言っとる気がする。
いつもいつもウチに罵られても蹴られてもけろっとしとる。
マゾなんか?気色悪っ!



風華、アカン!
やっぱりさっさと別れた方がええで!!


朝御飯のお礼に、いかにコイツがアカン男かということを徹底的に教えたらな風華が可哀想や。

最近いつもそう思うんやけど、朝のあの幸せそうな風華の様子を見るたびに気が失せてまう。
幸せやったら、ええかって。

なんかあったらいつでもウチにいいや!
ウチはいつでもアンタの味方やからな!


――――――
*天竺葵
花言葉:真の友情
――――――


- 1/1 -


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -