ああ、君は草食動物じゃなくて小動物なんだ?

──何だか今日は静かだな。
放課後の応接室でふと考える。
最初はただそう思っていただけなのに。
遅刻寸前の苗字が走って来ないだけというのに。
遅刻しないことは良いことなはずなのに。
…落ち着かない。


「まったく…あの子くらいだよ、僕をここまで振り回せるのは」


最近自覚はしている。僕が苗字名前という存在に特別な感情を持っていることくらい。
ただ、それが何かまでは分からないけど。

あの子は喧嘩が強い訳ではない。
少し煩くて料理が上手などこにでもいる女子生徒だ。
そう、並盛という名前にぴったりな平凡な草食動物。
強いて特徴を言うならば、遅刻魔(未遂)であることだろうか。
いずれにせよ、僕にここまで興味を持たせる決定的な理由とは言い切れないものばかりだ。


「気に食わない。最近あの子のことばかり考えてる」


取り敢えず今朝は、遅刻してきた沢田綱吉を咬み殺すだけで終わったのだった。


「…」


暇なのかいつも放課後は応接室に来ていた彼女が来ない…落ち着かない。
僕は何となく今日の出席状況を眺めた。
…苗字名前が来ていない?
成程、体調不良…
まあ明日になれば来るだろう、何も気にする必要はない。必要ないのに…

風紀の仕事を手早く片付けてバイクの鍵を持ってしまっている僕。
校舎から出てバイクに跨がってしまっている僕。
一匹の草食動物のためだけにここまでするものなのか。

それもこれも全てあの子のせいだ。

もういっそ自分自身に任せてしまえ。
あの子の家までの道にコンビニがあったはず。
ゼリーでも買って行くか…



***



彼女の部屋と思われる窓が開いている。家の正面から入る気分ではないし、別に良いかな。
そう思い、登って窓から見てみた。
…当たり。
いつも騒がしい彼女が静かに寝ているのを見るのは新鮮な気分だ。
確かに心なしか顔色が悪いようにも見える。


「…ひ、ばり…さん?」

「何だ、起きたの」

「あれ…何でここに」

「ただの気紛れ」

「気紛れ…」

「そう。これ食べれるかい?」


寝起きでまだ頭が働かない様子の苗字に先程買ったゼリーを渡すと、ありがとうございます、と言って彼女は微笑んだ。
…やっぱり君は笑顔の方が良い。
静かに大人しくしているなんて君らしくないじゃないか。


「…やっぱり雲雀さんは優しいなあ」

「ん?」

「私なんかの為にここまでしてくれて、らしくないですけど」

「自分でもどうかしてると思うよ」

「それでも、雲雀さんは素敵な人です」


そんな台詞をさらっと笑顔で言うなんて、全くこの子はどうかしてる。
たったそれだけの言葉に、それだけの笑顔に頬に熱が集まってる僕もどうかしてる。
どうかしてるとは思う、けど。
ひとつ気付いたことがある。


ああ、君は草食動物じゃなくて小動物なんだ?
─認識─



どこからか飛んできたあの黄色い鳥がスキ、スキ、と連呼するのを何故か必死に止めている苗字が愛しく思えるのだった。
…僕は君に、所謂恋というものをしているようだ。



2013/05/05
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