僕の視界に入らないでくれる?

ああ、苛々する。
今日の僕は何かが変だ。


「はあ…」

「委員長どうされました?」

「何が」

「5回目ですよ、溜め息」


そんなに溜め息を吐いていたのか。
草壁に言われるまで全然気付かなかったよ。


「別に…」


そうは言うものの、やっぱり僕は苛々している。
それもこれも原因はすべて"あれ"なんだろう。
さっき屋上で草食動物達を咬み殺したけど──

何故か、遅刻魔のあいつにだけは手が出せなかったんだ。

こんな事は初めてだ。
他の3人には攻撃が出来たのに、特定の1人には出来ないなんて。
攻撃しようとする度に、胸の辺りが苦しくなるなんて。


『コンコン』


応接室の扉が鳴った。
今は放課後だ、まさか彼女が来たのだろうか。


「誰」

「苗字名前です」

「!…入れば」

「失礼しま…す!?」


彼女が応接室に入るなり、僕はトンファーを投げてみた。
駄目だ、まともに狙えなかった。
草壁は彼女の遅刻を知っていたから、僕の機嫌を察して廊下に出たようだ。


「あっぶねー…」

「君は一体何者なの」

「え、2-Aの苗字名前ですけど」

「そうじゃなくて」

「何ですか?」

「…やっぱり何でもない」


君を狙えなかったから、なんて言えない。


「雲雀さん」

「何」

「昼休み、何で私だけ攻撃しなかったんですか?」

「!?」


不覚にも少し肩を揺らしてしまった。
気付かれていなければ良いけど…


「…ワオ、まさか咬み殺してほしかったのかい?」

「そんな訳ないんで安心してください」

「そうだね、どうせなら怯える奴を咬み殺したい」

「外道ですね」


ニッコリ毒を吐く遅刻魔。
多分気付かれてはいないな。
それにしても、何だろう。
彼女といると不思議と苛々しない。
さっきまで凄く苛々していたのに…


「本当に何なの…」

「ところで雲雀さん。骸…だっけ?その人知ってますか?」

「六道…?」

「ツナが、骸の気配がする!って言ってたから…どんな人なんだろうなって思って」

「六道はいずれ咬み殺す」

「知り合いなんですか?」

「そんな物じゃない」


ああ、また苛々する。
六道なんかの話題を出さないでほしい。
草食動物の名前だって聞きたくないよ。
やっぱり君はよく分からない。
君の側に居ると苛々したり嬉しくなったり…ってあれ、

…嬉し、く?

僕は嬉しいの?
何で嬉しいんだ僕は。
ああもう分からない。
いっそ突き放してしまえば楽なのだろうか。


「ねえ君…」

「な、何ですか?」


思ったより低い声が出ていたから、彼女は少し驚いたようだ。


「…何でもないよ」


僕の視界に入らないでくれる?

─無意識─



何で、その一言が出て来ないんだ。



2012/10/23
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