05 君に想いを馳せ忍び泣く


翌日、校内では赤司くんが斎藤さんを振った、という噂が流れていた。
断った理由が、なんでも好きな人がいるから、だそうだ。

「赤司くんの、好きな、人」

誰なんだろうか、あの赤司くんが好きになるぐらいだから、きっと性格が良くて、優しくて、スタイルが良くて、顔も可愛くて―――。
「っ…」
ぽろぽろ、と涙が目から溢れ落ちる。
女々しい私は赤司くんを、優しかった頃の彼を未だに忘れられない。
袖で拭いても拭いても、袖がびちょびちょになるだけで止められなかった。
放課後の教室は誰も居なくて、居るのは私だけだった。
机に顔を伏せ、声を殺して泣いた。


       『君に想いを馳せ忍び泣く』

優しい君は何処へ行ってしまったの?


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