03 君を忘れてしまいたいのに、


帰りのホームルームも終わって直ぐにテツヤは来てくれた。

「#名前#」
優しく名前を呼ばれる。
急いで荷物を鞄の中に突っ込み、テツヤのいる廊下にまで駆け足で歩む。
「テツヤ、ごめん!行こっか」
隣を歩くテツヤとの距離は子供の頃に比べたら広がったが、それでも人一人分はなかった。


「赤司くんっ、好きですっ!」
赤司、その名を聞いたときピタリ、と足が動かなくなった。
空き教室から聞こえた声。
あの声は、4組で一番可愛いって言われてる斎藤さんの声だった。

赤司くんの返事を聞きたくないのに、足が動かなくて、体が重くて。

「………」
テツヤが黙って手を掴んで、引っ張ってくれた。
触れあっている場所がとても熱く感じて、
あの頃を思い出して柄にもなく泣きそうになった。
前を歩いてるテツヤは一度も振り向かなかった。

『君を忘れてしまいたいのに、』
優しい君を思い出して、また君を好きになる。




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