02 耳を塞ぎ目も塞ぐ


赤司くんと別れてからもう一週間がたった。
私と赤司くんが別れたという噂はもう既に学校全体に広まっていた。
私と赤司くんは同じクラスだから嫌でも顔をあわせてしまう。
私から別れを切り出したとはいえ、未練はたらたらで、休み時間、赤司くんの元に女子が集まるのを見たくなくて、隣のクラスの幼馴染みに会いに行った。

「テツヤ」
生まれたときから一緒にいる影の薄い幼馴染みを見付けるのは私にとってはもう簡単なことだった。

ゆっくりと顔をあげたテツヤは私の顔を見て本を閉じ
、机の中に仕舞ったので少し申し訳ない気持ちになった。
「#名前#じゃないですか、どうかしましたか?」
「お話しにきたんだよー、迷惑だった?」
読書中に話しかけてしまったからね…。
「いえ」
ふるふる、と顔を横に振る幼馴染みが少し可愛く見えた。

「迷惑、じゃないんですが…」
「じゃないんですが?」
「…なんでもありません」
少しテツヤが言葉を濁したので聞き返してみれば、はぐらかされた。
「そうだ、今日バスケ部、部活ないんだよね?」
「はい、一緒に帰りますか?」
私の言いたかった事をさらりと言ってくれたテツヤは紳士だと思う。
「うん!」
「なら、僕が教室に迎えにいきますので」
「ありがとう!
そろそろチャイムがなりそうだから教室に戻るね!また後で」

手を振ると小さく振り返してくれたのが嬉しくて頬が緩んだ。
赤司くんとのことを一切聞いてこない優しいテツヤに何故私は惚れなかったのか、謎である。

               『耳を塞ぎ目も塞ぐ』
 けれど赤司くんをまだ忘れられないの。


prevnext