■ 悲しみ愛しみかなしむ

柴田先生はなんだか不思議な魅力を持ってるよね。
そう言った友人はまるで頬を赤らめ恋する乙女みたいな表情をしていた。
またそんな恋する乙女な顔をして…と言えばうるさい!実際に恋してるんだからいいの!と怒られるだろう。
「そぉ?私はなんとも思わないけどねェ…」
目にかかる髪を耳にかけながらそう言い返す。
「…ハァ!?アンタ、目おかしいんじゃないの!」
「ひどぉい!
だってぇ、私のタイプじゃないもぉん!」
「ああ、そっか。
アンタの好みは体型ががっしりした人だもんね…うん」
少し引いたような目で見られる。
解せぬ。
「何よォ、マッチョの何処が悪いのよぉ!素敵じゃない!守ってくれそうでぇ!!線が細い人より断然!
柴田先生はどちらかというと細っこくて、なんか、ぶっちゃけ弱そうでしょ」
グッと拳を握り力説すると友人はまだ噛み付いてきた。
「柴田先生がモヤシとでも言いてぇのか!!」
そこまで言ってない。
「んー…モヤシっ子そうじゃない?
儚い系美人はそこまで好きじゃないのよねェ。
年上は好きなんだけどぉ。
あとヤンデレも好きよぉ!」
「ガチムチヤンデレって…コワイ…」
ぽわわーんと想像してみる。
ガチムチでヤンデレの男に迫られる私…。
「なにそれ最高じゃない、どこかにそんな良い男いないかしらぁ?」
「アンタの話し方、近年稀に見る超ぶりっ子口調なのに嫌われてない理由がわかったわ…口調以外は基本的にいい子なのにね、もったいないわ」
「それ褒められてるのかしらぁ…?」
その会話を件の柴田先生に聞かれてるとは私達は、私は、思っていなかった。


「#名字#さん」
後ろから肩を叩かれ名前を呼ばれた。
「はあい?」
返事をしてくるりと振り向けば予想以上に近い所に柴田先生の顔があった。
それに少し後ずさってしまったのは仕方ないと思う。 
手は肩に置かれたままなので一歩後ろに下がってしまっただけだった。
綺麗な銀髪が陽射しに反射してキラキラしてまぶしい。
顔立ちが酷く整ってるのもあるのか、彼に光が降り注いで、神々しく演出していた。
まるで人間じゃない、人形の様にも見えた。
「少し二人で話をしたいんだけど…時間はあるかな」
疑問形ではない、問いかけではなくこれは強制だと感じた。
「…いいですよぉ」 
「じゃあ行こうか」
手が肩から離れた、が、腕を掴まれた。
そしてそのまま歩き出した。

慌てて足を動かす。
「何処に行くんですかぁ?」
「それは秘密」
こちらを少し振り返った彼は人差し指を唇に当てているだけなのになんとも言えぬ色気があった。

人気のなく、監視カメラがないと言われている空き教室の前まで連れてこられた。
「さぁ、入って」
そう言われて腕を離され、入るのを渋っていたらトンと背中を押される。
急な事で教室に倒れ込むようにして入ってしまった。
「ぎゃっ、!」
乙女らしからぬ声を出してしまった。
慌てて起き上がると柴田先生が後ろ手で鍵を閉めた。
なぜか凄くこわくて足が震えて立てずズリズリと座ったまま後ろに下がった。

「し、柴田先生…?」
「なんだい、#名字#さん」
先生はにっこりと可愛らしいとも言える笑みを浮かべてカツンカツン、と音をたてながら近付いて来る。
あっという間に追い詰められ背中が壁についた。
「なんで、鍵を、」
「なんでだろうね。
考えてごらん」
目の前の男は誰だ。
「せんせ、い、こわいです、よ?」
あはは、と笑うも顔が引き攣る。
「…ほう」

先生はまるで跪くかのように座り込み、私の頬を撫でた。
「…離れて、ください、先生…」
「シビュラシステムに支配されているこの世界で人々は、シビュラシステムに白と認められた者には警戒しない
ここに在籍している者もそれと変わらない。
だが、君は一人警戒していた。
僕という若い男に、ね。
それから興味が湧いたんだ」
「人は恐怖や欲望を前にすると本性を表す。
君が今感じている感情は恐怖だ。
君の本性、いつもの間延びした口調でなくなるほどに僕に恐怖している。
ああ、実に可愛らしい」

スルリ、と長いスカートで隠されている場所に先生の手が触れた。

「っひ、」
思わず体がピクリとはねた。
「君は僕の事をモヤシっ子、と言っていたね。
僕がモヤシっ子かどうか身をもって確かめるといい」
ぐるんと視界が変わり、押し倒されたのだと悟る。
先生は私に覆いかぶさり、耳元で私を一気に奈落の底に突き落とす一言を囁いた。
「おそらく君は初めてだろう?
出来るだけ手荒にしたくないから抵抗しない方がいい」
涙が頬を伝い床に落ちた。

              
『悲しみ愛しみかなしむ』


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