■ それは、獲物を狙う獣の様

「やぁ」
「…遅かったですね。槙島さん」
真っ白な美しい髪を靡かせ私の前に爽快と現れたのは髪と同様に美しい笑みを顔に貼り付けた槙島さんだった。
「すまないね、少し急用があって遅れてしまったんだ」
すまない、なんて思ってないくせに…、
白々しい人だ。
「…別に…。で、例の物は?」
顔をあげると不思議な色をしている瞳と一瞬だけ目があった。
が、私がすぐに視線を下に向け、
先に目をそらした。

「少し待ってくれないかい、
聞きたいことがあるんだ」

「聞きたいこと…?」
今まで数回ほど彼にあったけれど、仕事以外の話をしたのは今回が初めてだ。
「君にしか答えられない質問さ」
「私に、しか?」
なんだろ、私にしか答えられない質問って。

「そう」
「なんですか」


「君、スフィウトを読んだことは?」
いきなり何なんだ。
「…ありません」
正直に答える、この男は何がしたいのだろうか。 
こんな質問誰にでも出来るだろう。

「そう、一度読んでみるといい」
にこりと笑って私の髪を一房掬ってそれに口付けた。

…え?
「綺麗な髪だね」
柔らかな微笑に思わず目を惹かれながら、
フードを目深く被っていた私はふと視界が先程より明るくなっていることに気付いた。
「っ、」
何時の間に外されたのだろうか、またフードを目深く被ろうとすると手首を捕まれ強制的に止めさせられた。
「な、なにするっ…」
「僕は君が気になるんだ」
クスり、と笑った彼の整った顔が近付いて、
なにも見えなくなった。

      『それは、獲物を狙う獣の様』

ギラギラと熱が篭った金色の瞳に抵抗する気すら奪われた。

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