■ 灰色の女の子に赤い狼は恋をした

ばさり、と音を立てて己の灰色の長い髪がコンクリートの上に散らばる。
頭がコンクリートに激突する前に頭の下に手を滑り込ませてくれた事には感謝はしているが、背中を強く打って痛い、息が一瞬止まった。
そもそも人様を押し倒してきて、背中を強く打った原因を作った奴に感謝することはないか。

「痛い、んだけど」
淡々と睨みながらそう言い放つと彼はゆるりと赤と黄のオッドアイの目を細めた。
「抵抗、しないのかい」
「抵抗したとこで何か変わるんならしてやるよ」

私の腹に馬乗りになり、私の頬に手を這わしている男、赤司征十郎のただただ無表情で何を考えているのかわからない瞳がこちらを静かに見つめていた。
「…もうバスケ部じゃない私になんか用か?」
私はこの男にバスケ部を追放されたのだ、この男の事など私は大嫌いだった。
そしてこの男も私の事は嫌いだろう。
「なにもないよ」
「あっそう」
素っ気なく返事を返した。
頬に這わせていた手をゆるりゆるりと下に、首に今度は手を這わせてきた。
暴れると凄い力で押さえ付けられた。
しかも片腕で。
ぼんやりと、思考が霧が掛かったように何も考えられなくなった。
この男には何をやっても勝てないのか、そう思えば、
ぽろぽろ、と涙が目の端からこぼれ落ち頬を伝って落ちてゆく。
一度溢れたものを止めるなんて器用なことは不器用な私には無理だ。

それを見た赤司は酷く動揺したようだ。

「…もう、アンタ達と私は関係ねェだろ…ほっといてよ…」

「…関係あるさ、僕にとっては」
好きだよ、だから泣かないでくれ。
そう言った赤司の目は、表情は、声は、酷く悲しげだった。
胸が締め付けられるような感覚に陥った。

   『灰色の女の子に赤い狼は恋をした』

好きなんだ、でも、接し方が分からないんだ。
他の男と話さないで、「俺」、「僕」だけを見て。


灰崎成り代わり。

[ prev / next ]