■ 崩れて終わる、とある魔法の、物語の世界

「アルクトゥルス、どうしてここに?」 

傷だらけの私の手を引いて走っている彼は答えない。

「ねぇ、聞いてるいの?」

「聞いている」
聞いているのか、という問いをした途端、即座に返ってくる答えに、頭が痛くなった。
「ここは、マグルの町よ。
魔法使いなんて私達以外にはいないわ。
貴方は純血主義でしょう?
どうして、こんな、田舎町にいるの?」
いつの間にか、彼は立ち止まり黙り込んだ。
そこは私の家から結構離れた場所にある湖だった。
「貴方、どうやってきたの?」
「姿現しに決まっているだろう」
「…貴方、もう17歳だったかしら?」
「ああ、そうだよ。
#名前#、」
するりと頬を撫でられ、
ぎゅっと抱き締められる。



「ホグワーツを卒業したら結婚、しよう」
その言葉にぼろぼろと涙が溢れた。
私は、原作を守らなくちゃいけない、トム・リドルに惚れ薬を飲まして、そして、トム・リドル、もといヴォルデモートを、生まなくてはいけない…でも、私は…。
''彼女''と私は同じ存在だけど、''彼女''と私は違う。
''彼女''と違うのは整ったこの容姿とホグワーツにちゃんと通っているのと、まだ家の財産が全て尽きていないこと、そして''トム・リドル''への気持ちだった。

「わた、し、は」
「なにも言わなくてもいい、それでも僕は君を愛してる」

アルクトゥルスは上流貴族に相応しい気品に溢れた笑みを浮かべた。
 『崩れて終わる、とある魔法の、物語の世界』

その言葉はとても優しくて、残酷なもので、暖かなものだった。
首から下げたロケットが、キラリと光り、
頭のなかで何かが崩れ去った音がした。


メローピー成り代わり。

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