■ 白と黒に揺れた朱色は黒に塗り潰された

消えてしまいたい。
ここから居なくなってしまいたい。

「……#名前#ちゃん?」
ゆさゆさと体を揺すられ我に帰った。
「あー…、ごめんなさい……。
ぼーっとしてました」
真っ白な綺麗な肌、ぱっちりとした、ブルーサファイアの瞳、太陽の光を浴びてキラキラと反射する美しい金色の髪と髪と同じ美しい金の睫毛。
「具合悪いの?大丈夫っ?」
人形のように整った可愛らしい顔を心配そうに顔を歪ませた彼女に対し、
ドロリとしたどす黒い感情が生まれる。

「…少しだけ気分が優れないので、部屋に戻りますね。すみません……」
「え、うんっ、ゆっくり休んでね!」
少しだけ嬉しそうに微笑んで白い彼の元に向かうだろう彼女に吐き気がした。

つかつかと早足で歩く。
気持ち悪い気持ち悪いきもちわるいキモチワルイ。

左手を口に当てながら歩いていると、左腕を突然掴まれ乱暴に壁に押し付けられる。

「っ……」
「やぁ」
顔の横に手をつかれ逃げられそうにもない。
「雲雀、恭弥……なんで、ここに……」
彼は端整な顔に笑みを張り付けている。
さらりとした艶のある黒髪、一目見ただけで上等な物だと分かる黒いスーツ。

「恭弥って呼んでよ。
ボンゴレとミルフィオーレとの親睦会に参加しようと思ってね。
今日はその打ち合わせに来ただけ」
耳をがぶりと噛まれる。
「っ、やめ」
痛みで生理的な涙がじわりと浮かぶ。
「泣かないでよ」
眼鏡を取られ、器用に舌で目から溢れ落ちる涙を舐め取られる。
ざらざらとした物が頬を滑る。
吃驚して思わず涙が止まる。
「君に泣かれるとどうすれば良いか分からない」
「なんで、そんなこと言うの、?」
「わからない?じゃあ、ヒントをあげよう。
君があいつに向けている感情と同じさ」
少しだけ伏せられた灰色の瞳にはギラギラと獲物を見付けた猛獣のような光が灯っていて、
さながら私は追い詰められた哀れな獲物なのだろう。
吐き気は何時の間にか消えていた。

私に噛み付くようなキスをする目の前の真っ黒な彼と正反対の色をしたあの人が視界の端に映ったような気がした。
でもまるでスモークがかかったみたいにぼんやりとする視界と思考ではもう何も考えられなかった。
最近まともに寝てなかったからか、睡魔が突然牙を剥き襲い掛かってきた。
微睡みの中彼を見上げると驚くことに満足そうな優しい笑みを浮かべていて――――――、
「お休み」


「#名前#、ちゃん……」

            『白と黒に揺れた朱色は黒に塗り潰された』



「悪いけど、彼女は貰ったよ」
早い者勝ちって、よく言うだろう?
そう言って僕は嘲笑った。


入江正一成り代わり。

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