小説 | ナノ


「んっ…」
ゆっくり目を開き、起き上がる。
隣の彼はまだぐっすりと眠ったままだ。
窓の外はまだ暗く、カーテンの隙間から差し込む月明かりが私を照らしていた。
 隣を見ると彼の綺麗な顔が月明かりに照らされ余計に美しく見える。

彼の頬にゆるりと手を這わす。
「…どうして貴方は私を殺さないのかしら」

ポツリと呟いた言葉は静かな彼の寝息と私の呼吸音だけだった部屋によく響いた。

「はやく、殺して、あなたを愛してしまう前に、はやく、」
瞳からポタポタと溢れ落ちる涙は真っ白なシーツに吸い込まれて行く。

嗚咽を必死に殺して泣く私はさぞ愚かで醜いものでしょう。
何もせず、何も言わずにただ寝た振りを続ける彼に私はどう映っているのだろうか。
愛してとは言わないから、どうか今だけは、



『壊れてからも優しいまま』
今だけは貴方のことを想って泣くことを許して。



mae tugi 4 / 7