小説 | ナノ


いつになったら彼は私を殺すのだろう。
最近の私はこのことだけを考えていた。

あの風呂場の事件(自殺未遂)以来、彼は過保護になっていた。

私が料理を作ろうと包丁を持てば隣で見張られ、お風呂に入ろうとしたら
「30分以内に出てきなさい」と言われ扉の前に居座られた。
彼も暇じゃないだろうに。
(しかも30分以内に出てこなければ次から一緒に入るぞと脅された。
アレは冗談じゃない、目が本気だった。)
彼が仕事に出掛けていれば何もしてはいけなかった。
ベットに倒れ込み染み一つない真っ白な天井をボンヤリと見つめる。
いったい何時間たったのだろうか。
何となく天井に手を伸ばす。
が、突然にゅっと現れた手に腕を掴まれた。  
「ただいま、帰りました」  
「お帰り、なさい」
にこりと笑って私の隣に腰掛ける彼。
石鹸の香りに混じる鉄の香り。
少し血の香りがした。
髪が濡れているから私のところに来る前にシャワーでも浴びたんだろう。
ゆっくり体を起こそうとすると背に手を添え手伝ってくれた。
「…ありがとうございます」
「いえ」

いつまでこのぬるま湯のような生活が続くのだろうか。
叶うならば彼の腕に抱かれたまま息絶えたい。




       『はやくその毒をください』


甘やかなその毒で早く私を殺してよ。

  


mae tugi 3 / 7