小説 | ナノ


「君は何をしているのですか」
その言葉が聞こえたときぼんやりとしている視界に藍色が映った途端、
乱暴に腕を捕まれ水上に無理矢理引き上げられる。
「ゲホゲホッ、」
突然肺に酸素が流れ込み噎せた。
「…私、裸なんですけど」
「風呂に入ったきり一時間も出てこない、
しかも物音一つもしないうえにご丁寧に鍵をかけて明かりが消えている風呂で自殺を試みる貴女が悪いです。
普通なにかあると思うでしょう」
「扉、は…」
「壊しました」
そう言っている彼の目と声色は酷く冷たい呆れたようなものだった。
なんで、彼は邪魔をするんだろうか。
仕事のターゲットが勝手に死んでくれるというのに。

ぼんやりと破壊された扉を見つめ考える。

ぐいっともう一度腕を引っ張られる。
「…服、濡れますよ」
「今はそんなこと気にしてるときじゃないでしょう。」
と言われ抱き上げられる。
「…自分で立てます、
降ろしてくださ「ほう?」・・・。」

脱衣場でおろされ髪を拭かれる。
抵抗したが男、しかもボンゴレ霧の守護者に力で勝てるわけもなく押さえ込まれた。
あらかた髪を拭き終わると私にタオルを押し付け、
「後で話があります」
と言って彼は脱衣場を出ていった。




服を着てリビングに戻ると別の服に着替えソファーに座って長い足を組み頬杖をついてこちらを見つめている彼がいた。

「遅いですよ」
「すみません」
刺のある彼の声。
いつも優しい声とは比べ物にならないほど冷えた声。
何故そこまで怒っているのだろう。

「こっちへ来なさい」
ゆっくりと彼に近付く。
彼が手を伸ばせば簡単に私に届くくらいの距離にまで縮まった途端彼は私の腕を掴み引っ張った。
風呂場と違い優しく腕を掴んだ彼は私を自らの懐に招き入れた。
「あのっ、骸さ」
「#名前#…どうして、死のうとするんです…?」
「……」
彼は私の顔を自らの胸に押し付けたまま悲しそうな声で話始めた。
「この傷だって…」
私の手に優しく触れ、手首にあるリストカットの跡をなぞっている彼は一体どんな表情をしているのだろうか。

「#名前#、お願いですから、」
死なないでください。

今にも泣き出しそうな声で言った彼は、私をきつく抱き締めた。
本心なのか嘘なのかは分からないけど、もう少しだけ彼の温もりを感じていたいと思った。





           『緩やかにいま墜ちてゆく』

              

彼の温もりを感じながら私は静かに目を閉じた。 






mae tugi 2 / 7