小説 | ナノ


とうとうこの日が、きた。
心が歓喜の声をあげた。
それと同時に胸にちくりと痛みが走るが、すぐに忘れてしまうほどの小さな、ほんの僅かな痛みだった。 
壁際まで追い詰められ首を軽く絞められているこの状況で笑っている私を、彼は不気味な物を見たような顔をして睨んでいる。
その顔にまた思わず笑みが溢れる。
「くぁっ…」
「…気持ち悪いですね」
バッと首から手を離され、急に肺に酸素が流れ込み噎せながらずるずると壁に凭れ床に座り込む。
私が息を整えている間に手に持っている三叉槍で私を引き裂いて殺せば良いのに、この人は何をしているのだろうか。
私は顔を床に向けているため、立っている彼がどんな表情をしているのか確認できなかった。
きっと軽蔑しきった表情で見ているのだろう。

「……ねぇ、殺さないの?」
下を向いたまま彼に問いを投げ掛けたが答えは帰ってこなかった。

何故かじわりと滲んだ視界に高級そうな靴が映った。

「#名前#、」
「なんで、どうしてっ、殺してくれないの?なんで?
そんな優しく呼ばないでよ」
「#名前#、」
頬を大きな手で包まれ顔を強制的に上げさせられた。
「なんで、そんな」
悲しそうな顔、してるの
その言葉は音にならず消えた。
バサリと腰まであった髪を肩まで切られた。
髪が足元に散らばる。
「え…どうして、髪を…」
「#名前#は今死にました」
そんな、そんな髪を切ったからってそうとはならないのに…。

「#名前#、」
―――愛しています。

初めて貰った愛の言葉は私を泣かせるのには充分で、



『悪夢よどうか醒めないで』


子供のように泣きじゃくる私を抱き締めてくれた彼はとても暖かくて優しかった。



happyend


mae tugi 5 / 7