- ナノ -

第6日 地の獣、家畜、土に這う全てのものを創った


ブリッツ・T・エイブラムス氏を師匠と仰ぎ、彼と共に世界を周った。
一人前になるまでは彼の元で技術と手段を磨き、そして十分対処出来るようになるとそれぞれの国々や目撃場所へ派遣されるようになる。
ナマエは最初にエイブラムス氏と出会った時、思い切り顔を歪めていた。何が彼の気に障ったかは分からないが、あまりエイブラムス氏と接触しようとしなかった。エイブラムス氏の人柄は良く、時折無茶な指示を出してくるものの、よくコミュニケーションを取り、技術を教えようとする姿勢は共にいる身としてとても有難かった。理由を聞いてみれば“今は大丈夫かもしれないが、いつこっちに被害が被るか分からない”とだけ言って、まぁクラウスは気にすることはない。と締められてしまう。

「クラウス」

エイブラムス氏の元で吸血鬼を退治する際に、彼が一度だけ私に頼み事をしたことがある。
実地を踏んでいくたびに、吸血鬼がどれほど強力で残虐で、人類が弱いものなのだと実感していった。それが地上のどこかしらに潜んでいるのだと理解するたびに、絶望を落とされたような気分にさせられる。しかし、それらから人類を守る為に存在するのが“牙狩り”だ。私はそれを誇りに思う。
だが、被害が出るたびに人々は殺され、自らの力不足を悔やむ。

彼はどれほど被害が出ようとも達観したブルーの瞳で世界を見ていた。
傷だらけの身体を引き摺って、血だらけの身体を動かして、彼は全てを見ていた。
それを、どれほど眩しく思っただろうか。

「もし俺がへまって化け物になる時があったら、俺を殺してくれねぇか」

常と何も変わらぬ声色で頼まれた事柄に、思わず容易に返事をしそうになって言葉を飲み込んだ。
必死に考え、理解して、嫌だと口に出しそうになった。
彼は傷を負っていた。怪我をして、包帯を巻いて、白い布が血で赤くなるほどにまだ傷が塞がらない彼の姿を見ていると、その頼み事が現実になってしまうのではないかと思ってしまったからだった。
彼の瞳はこちらを向いていなかった。深淵を臨む彼の目は、まるで世界の真実を覗いているようだった。それがさらに、彼の願いに対し、否定的にさせた。

彼が、彼が飛び立たないようにと隣にいるというのに、どうして彼はその為の一手を私に頼もうというのだろう。彼がまだ隣で笑ってくれるよう、この世界で立っていてくれるよう、枷となろうと誓ったのに、その私にその役目を預けるのか。

「――分かった」

声が震えていなかったか、強張っていなかったか分からない。
だが、彼は遠くを見ていた目線をこちらに映して、ありがとうと言ったのだ。
それだけで良かった。

私に飛び立つ手助けをさせようというのなら、そうならぬようにしよう。
枷となりながら、彼を守る盾となろう。
まだ成長しきっていない身体は若かった。今と比べ、背も低く声も少しだが高かった。だからこそ、自らがもっと成長できると知っていたからこそ、そう誓えたのだ。
強くなり、彼を守れるようになろう。彼は私を守ってくれていた。だから、守り返せるようになろう。
そう、誓った。