- ナノ -

第5日 動物と鳥を創った


一時期だが、自らが“牙狩り”となるのに躊躇していた時期がある。
それは恐怖の為ではなく、自らの力不足による部分だった。滅嶽の血を持ち、吸血鬼を密封できる一族。しかし人を守る為の力も、技術も、倒す為の拳も鍛錬が足りない。
そんな半人前の己が牙狩りとして動くことに対しての不安があった。

「驚いた。クラウスでもそんなこと言うのか」
「私とて、そう思うこともある」

彼は私の事を頑固で短気だと称した。
言われた直後はショックで、その後はそれをどうにか直そうとした。しかし彼に尋ねると、よく隠れているとか、関わらないと分からなくなっているとか。そういう隠蔽する方面ばかりに技が長けるようになったと称するだけで、性格が変わったなどとは言わなかった。
それに落ち込めば、彼はそうでなければ“クラウス”ではないという。納得は出来なかったが、そう言われるのは嫌ではなかった。

驚いた。と顔で表して口にまで出した彼は、悪いと軽く謝罪した。

「大丈夫だよ。お前なら大丈夫だ。俺にゃあ分かる」

彼は時折、こうして理屈の無い慰めや鼓舞をする。理由がなければそれも受け入れがたいが、彼が言うことはほぼ確実に合っている。しかし、そんな結論がなくとも、彼からそんな言葉を受ければ、私は意味もなく安堵していた。
彼は堂々とそんなことを言う。自らの発言を全くもって疑っていないように。それが決定された事項であるように。

「何故」

だからこそ、その時の言葉は少しの好奇心だった。
彼からもらった眼鏡のレンズ越しに彼を見ていれば、ナマエは堂々と言った。

「お前だから。それと、俺もいるしな」

そう。彼もいる。
当然のように彼の口から出された言葉に、過去に誓った想いを違えなかった嬉しさがこみ上げ、破顔したのを、覚えている。

幸せだった。