- ナノ -

第4日 太陽と月と星を創った


夏休暇など、学園が長期で休みになる時期があった。
殆どの学生は自宅へ帰省し、ひと時の家族団欒を楽しむ。しかし、彼は帰る家はあるものの待っている者がいないと言って学園寮から出ようとしなかった。
そんな彼を何度か私の家に招待したことがある。一度目の招待の時はとても興奮し、嬉しがっていた彼だが二度目からはどこか覚悟を決めるような顔をして足を運んでいたのをよく覚えている。
ラインヘルツの屋敷へ着くと、使用人たちが迎えてくれる。貴族なら普通の光景だろうが、ナマエは過去貴族であったので、珍しいらしく黙ってその光景を見ていた。

「お帰りなさいませ。お坊ちゃま」
「ただいま。ギルベルト」

久方ぶりのギルベルトの顔を見ると、返ってきたのだと安堵できる。この瞬間が好きだった。
ギルベルトは私に挨拶をした後に、ナマエの方を見た。

「そして、ようこそおいで下さいました。ナマエ・V・シュトルベルク様」
「……どうも。クラウスの友達やらせてもらってます」

vonとは、ドイツ貴族に用いられる名の前置詞だ。ナマエの場合はショトルベルク“の”貴族というように。しかし彼は自ら名乗る際にそれを使ったことはなかった。聞けば、もう貴族出ないからそんな大層なものを使おうと思わないと彼は笑った。清々しいぐらいの言葉にそうなのかとその時は思ったが、彼は貴族という称号を好いていなかったように思う。
この時、どうしてギルベルトが本人は使用していない、そして体外的にも貴族ではないナマエにそのような物言いをしたか私には分からなかった。だが、そのギルベルトへ返したナマエの態度や言葉遣いから二人はどこか緊張感を放っていて、互いに牽制し合っていたのだと今なら分かる。
それでも、帰る頃にはギルベルトと笑顔で話すような間柄になっているのだから、ナマエは普通の子供ではなかった。

「良いお友達を得られましたね」
「……! あぁ!」

そう微笑んでいうギルベルトの言葉に、私はとても喜んだ。
彼が褒められれば我がことのように嬉しい。彼が貶められれば我がことのように悲しい。
ギルベルトの言葉は、そこに更に自らのことに関することだった為、尚更だった。

「また来てくれるだろうか」
「お、おう! 勿論だ」

そう返事をした後に“作法の勉強を――”とブツブツ言っているナマエを尻目に、私はそれから年に一度の恒例行事となるこの帰省を学園に帰る道すがら楽しみにしていた。
そんな私を見て、彼は呟くのをやめ、やはり笑った。