- ナノ -

第2日 神は大空を創った


彼はやはり、少し変わっていた。
彼が変わっていると思う所は大小ある。大の部分は、彼が将来“牙狩り”として吸血鬼を狩ろうと勇んでいる所だった。彼の父親は牙狩りに種族しており、しかしその尽力も止む無く彼が学園に入学する少し前に戦い亡くなってしまったそうだ。既に父の世代から貴族ではなかった彼の一族であるが、それでも人々を守る為に父は自らの血を使い戦いに身を投じていたらしい。それを彼は哀れにも似た感情で見ていたらしい。生真面目だった彼の父は、既にノブレス・オブリージュ(貴族の背負うべき義務)も無いのに人々を守らなくてはならないという貴族であった頃の誇りと正義感で身体を張っていた。そのせいで、病弱な母にも会いに来ず、幼いナマエにも顔を見せたことも少なかったという。
“牙狩り”については私も知っていた。しかし自らの使命についてはぼやけるようにしか認知していなかった。ただ、私も貴族としての義務としてそこに所属し人々を守るのだと。
しかし、ナマエは違う。彼自身が言っていたように、もう貴族ではないナマエの一族は、その義務を背負う立場にはないはずだった。
だが、彼は吸血鬼を狩ると言う。

「復讐だよ。父上は吸血鬼のせいで滅多に家には帰ってこないで、来たとしても傷だらけで死に掛けだった。それで母上の死に目にも来られずに、結局家族の目から遠いところで死んだ。俺はもっと父上と一緒に居たかったし、母上と父上の仲睦まじいところも見たかった。だから、これは復讐なんだ。人を守れて復讐も出来る。良い将来じゃねぇか」

彼の深いブルーの瞳は時折海のような深遠さを見せる。
きっと彼は遠い所へ行ってしまうだろう。目を離した隙に、私が止めたとしても遥か彼方へ消えてしまうのだ。そう思わせる物があった。それは気高さかそれとも彼を引き留めるものがない為か。
ならば、私がそれとなろう。気高い彼の隣に立とう。飛び立つ彼を引き留める為の枷となろう。
そうすることで、彼が本当に手の届かない遠くへ行ってしまうことを避けられるのならば、私は彼を支えながら重りとなろう。

「私も、私も共に行こう」

彼は驚いた顔をした。そうして少し悩んだ後に、嬉しそうに笑った。