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第1日 はじめに神は天と地を創造した


笑った顔が、まるで向日葵のようだった。
年齢が一桁の頃に出会った彼は、学内でも珍しい人間だった。没落貴族の出身で、しかしその身に宿す能力を買われ学園から学費を免除されていた。彼はいつも一人でいて、しかし寂しそうな顔は一切していなかった。周囲が貴族や名のある人間の子供ばかりで息苦しいだろうに、全く気にした様子もなく飄々と歩んでいる。その様子は、私から見ればとても勇ましくて、羨ましかった。
学園に馴染めなかった私も一人だった。だが寂しかったし、いつも隣にいたギルベルトがいないという状況での暮らしは何もかもが初めてのことで困惑しきりだった。
だから似たような状況である彼が何も困った風でもなく寂しげでもないことに疑問を抱き、そして凄いと感じていた。

「なぁ。クラウスだろ」
「え……あ、うん」
「やっぱり。俺、ナマエって言うんだ」

何の前触れもなく、図書館で読書をしていた私へ彼が話しかけてきていた。
ずっと憧れていた彼と会話をする機会など訪れることなどないと勝手に思っていて、しかしそう思うほど接点のなかった私は、唖然として彼から言われている言葉の意味がよく分かっていなかった。
だが、彼が向日葵のような満面の笑みを浮かべて、言った言葉を覚えている。
きっと、それが人生の転換点であり、彼から様々なことを学ぶための一歩だったのだと思う。

「俺と友達になってくれないか」

人の笑顔を眩しいと感じたのは、この時が初めてだった。