- ナノ -


第四の鉢

人間が太陽の火で焼かれる。それでも神を冒涜し、悔い改めない


寝転がるナマエは、戦闘後の安全に身を委ねつつ破顔していた。包帯を身体に巻き付けながら、しかし過去の記憶と相違ないナマエの姿に頬が綻ぶ。彼がいる。確かに目の前に、手の届く距離に存在しているのだ。
消えてしまった。手を伸ばしても届かなかった。己の無力さに、彼に強さに咆哮した。だが、彼はいる。ここにいる。

「ナマエ、手を」
「ん? ……おう」

嬉しそうに笑ったナマエは、差し伸べた手を左手で取った。戦いの中ではしっかりと確認できていなかったが、彼のライダースーツの右腕側は、何も中身が通っていなかった。中身のないその部分を確かめて連想したのは襤褸切れのようになり、唯一発見された彼の右腕だった。傷だらけであり、血体術の使い手である彼が身体を元に戻せていないという事実はナマエが致命傷になりうる攻撃を受けたのだと考えさせるには十分で、遺体の見つからない彼が亡くなったのだと信ずるに足りるものだった。
それでも私は諦められずに、捜索の終わった村だった場所の周辺を探し回った。村はまるで嵐が吹き荒れたような有様だった。建物はは壊しつくされ、木々は倒れ、人は消え去っている。血痕の残骸だけが残る酷い光景だった。
私はあの時、ナマエを引き留めることが出来なかった。共に戦うことが出来なかった。彼の腕は永久に失われたのだ。その意実は覆らない。絶対に。過去の力不足故の過ちは消えず、彼とのあの日から今日までが返ってくることはない。それでも、この手の平にある彼の手が存在するという事実があれば、良いと、感じてしまった。
あんなにも悔いていたのに、あんなにも恐れていたのに。身勝手な己の胸の内が汚らわしく、しかし感情は抑えられない。

「会いたかった。ナマエ……!」
「俺も、ずっとお前を探してたぜ。クラウス」

見えている右目を細め、ブルーの深淵に映る私と背後の霧を抜ける夕陽。
ああ、まるで物語に出てくる主人公のようだ。もう駄目だと思っていたら颯爽と戻ってくる。彼はそんな人だった。だが彼は、時折、その物語の根本を揺るがすような捨て身に走る。
彼がいなくては何もかもが台無しなのに、彼はそれを自覚せぬまま自由に生きる。ブルーの瞳に己の信ずるものだけを臨み、他を見ない。端から存在もしないように。
しかし、彼はいる。手に握り、私を探していたと言った。彼自身が赤い光を放っているかのような美しい光景に背に歓喜が駆け抜ける。

「もう日も落ちるなぁ。夏だからか眩しいし」

糸のように目を細めたナマエは、本当に生きていて、目の前にいて、触れられている。
眩しい。とても、目を焼くようで。

「私は、君が眩しい」
「……へ? なんだよ。俺、発光でもしてるか?」

意味は分かっているのか、照れたように笑い眉尻を下げる。久しく感じていなかった、胸が暖かなもので満ちる感覚がした。