- ナノ -


04


どうしてホークスを信じられるのかと聞かれたときに、彼はヒーローだからと応えた。
それは本当にその通りだった。だって、彼はヒーローだった。
背中を預けられる、信頼できる優秀なヒーロー。
それを肌身で分かっていたから、疑えるわけもなかった。

『エンデヴァーさん』

ニュースでも、漫画でもない。実際に顔を合わせて、共闘して、言葉を交わし合って理解していた。
お前は心底、ヒーローだよ。



目を開けて飛び込んできた白い天井に、退院しなかったっけと内心で首を傾げた。
確か右手の指の骨折だけだったから、そう思って首を動かして右手を見てみると覚えているよりも包帯の束が大きくなって手の自由がきかなくなっていた。
ぼやけて不明瞭な視界の中で、誰かから声をかけられる。

「起きたかな」
「……つか、うちけいぶ?」

顔を向ければ、そこには椅子に座っているらしい塚内警部がいた。
なんだろう、ついさっきまで話していたのにとても懐かしい気持ちだ。

「ほーくすは」
「検査を受けて、個性にかかっていたことが分かったよ。今は個性が解けるまで療養中」

やっぱりそうだ。私の思った通りじゃないか。ふん、と小さく鼻を鳴らす。

「ただ、どこで個性にかけられたかは判明してない。もしかしたらヴィランの仕業の可能性も」
「……ほーくすが知らずにこせいにかけられるのはかんがえにくいから、市民のきゅうじょのさいちゅうに受けたんじゃないかな。にゅーすで、こせいじこのたいしょに当たったってほうどうしていた」
「……ああ。警察でも本筋はその路線で捜査してる。君の意見が聞けてよかったよ」
「それぐらい、あなたなら分かってただろ……」

よく言うよ。今度は不服で鼻を鳴らした。
なんだか、普段はあまりしない動作をしてむずがゆい。くしゃみが出そうだ。

「なぁ、君は一体誰なんだい」

何を言っているんだろう。クエスチョンマークが脳内に現れて輪郭を失ってパラパラと砕け散る。その答えはもう出ていた。

「……ほーくすは、まちがってなかったな」
「え?」

ぼうっと琥珀色の瞳を想う。濁った眼はもう見たくない。次に見るときは、美しい、昔のままならいいんだけれど。

「あと、怖い」

人を浚って監禁して――まぁ、別にそれはいいのだ。もう。
けれど、怖いのはそこじゃない。どれほど鋭いといっても、限度があるだろう。黒髪と、碧眼ぐらいしか類似点はなかったんだぞ。個性だって発現していない。性格だって違う。だっていうのに。

「どうして俺がわすれてたのに、あいつはわかったんだ」

誰に聞かせるわけもない。ただの感想だった。
だがその場にいた男は、暫く黙った後に、気が抜けたような声で感想に応えた。

「まぁ……それが愛ってやつなんじゃないか」

相変わらず適当なことを言う人だ。
けど、間違っているとはついぞ言えずに目を閉じた。


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