- ナノ -


02


やってきたのは所謂塩顔、というのだろうか。けれどよくよく見て見てればイケメンな、塚内という警部だった。
――生塚内警部だ。
漫画でも出てきていたキャラクターで確かオールマイトと仲が良かったはず。個性はないか公開されてなかったか……、警察は個性を使わない組織なので描写される機会がなかっただけかもしれないが私の知識の範囲では把握していなかった。
病室へやってきた塚内警部は両親に挨拶をして、私を少しばかりじっと見つめた後に小さく首を振ってから挨拶をしてくれた。妙な間に驚いてしまったが、その後は特に何もなく今回の事件について話を聞いてくれた。
親子それぞれに聞く内容が違うのだろう。部屋を移動してお互いがいない状況で聴取を行っていた。
そして私の番の時、正直話しにくい内容がいくつかあったが、仕方なく嘘偽りなく話をした。時折目線が鋭くなりつつ、最後まで話を聞いてくれた塚内警部。

「大変だったね」
「はい……」

大変じゃなかったというのは嘘なので素直に首を縦に振る。もう二度とああいったことは起きて欲しくない。
話が途切れたところで、チラリと塚内警部を伺う。父には話していたが、伝わっているだろうか。
塚内警部は私の視線に気づいて、困ったように眉間に皺を寄せた。

「ホークスと話がしたい、だったかな」
「はい」
「内容を聞いた分には、顔を見るのも嫌になってるかと思ったんだけどな」

どうやら話は通っていたらしい。しかし事件の内容を聞いて私のお願いが理解できないらしかった。そりゃあ、私も他人がそんなことを言っていたら意味が分からないし、止める。小さな子供、しかも五歳児にトラウマを思い出させるようなことはさせられない。
だが私の精神年齢は五歳児ではないし、未だにホークスが犯人であると納得できていないのだ。

「ヒーローホークスは、落ち着いてますか?」
「ああ、冷静だよ。君にしてしまったことを反省している」

つまり犯行を否定してはいない。自分がしたのだと認めている。
このままだと、ホークスが犯罪者になってしまう。それは、それは嫌だ。

「話をさせてください。ホークスは、」
「ホークスはあんなことしない。だったかな」

私の言い分も聞いていたらしい。先んじて告げられた言葉に口を噤む。
塚内警部はやはり困った顔をして、首を横に振った。

「被害者を犯人に会わせることはできない。危険だよ、君にとっても」

それはそうだ。分かっている。塚内警部の言葉が正しいことも。
けれど私はここで引けなかった。ここで引いてしまったら、私は。

「でも、そうしたら」
「そうしたら?」
「俺、ホークスは犯人じゃないって言います」
「……なんだって?」
「きっと被害者だから、すごくインタビューとかされると思う。けど、全部にホークスが犯人じゃないって答えます」
「……」
「嘘だって、何かの間違いで、ヴィランの仕業だって答えます」

塚内警部の顔が固まって、無言になる。
そりゃそうだ。ヒーローホークス、No.2ヒーローの大スクープ。被害者にも相当の世間の目が向けられるだろう。だというのにその被害者が自ら『ホークスは犯人じゃない』などというのだ。混乱は必須だろうし、一部は警察の調査に疑問を持つかも知れない。たとえ本人が認めていたとしても。
脅し混じりになっているのは自覚している。申し訳ないことをしているとも。けれど、これは事実起こることだ。おそらく私はインタビューなんてされてしまったら、この通りに答えるだろう。なにせ自分が納得できていないのだから。
塚内警部はたっぷり数十秒黙った後に、深いため息をついた。

「君は、ホークスのファンだったりするのかな」

ホークスの?

「えっと、ヒーローは好きです」

ホークスの、といわれると別にそんなことは、ない。
勿論好きだが、ファンというのはグッズを持っていたり、持っていなくても特定のヒーローとして応援しているという感じだろう。私はヒーローに憧れていた時期もあるから当然ヒーロー自体は好きだけど、個人的に情報を追ったり誕生日を祝ったりなんだりというのはない。ホークスも、見た目がカッコイイ、漫画で知っているから会ってみたい、サインもらいたいという気持ちはあるがおそらくオールマイトにもデクにも多少なりとも同じ感情を抱くだろう。
特段、今のところ胸を張ってファンですといえる状況ではないように思える。

塚内警部は眉間を揉み込むような動作をした後に、一つ頷いた。それに思わず上半身をはねさせると、注意するように指先がこちらを向く。

「話をすることは許可するけど、少しでもホークスが不審な行動をしたら直ぐに引き離す。いいね?」
「はい!」


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